自宅兼事務所で仕事をしています。家賃がかからないことは経営上の大きなメリットですし、作業も基本的に一人で行っているため、人件費もかかりません。高価な机や椅子もなく、必要最低限の設備で業務を進めています。また、プライベートでも、豪邸に住みたいとも、高級車に乗りたいともまったく思いません(自宅は中古を購入、車は16年間乗り続けています)。
こうした環境は不便ではなく、資金配分を考え、経費を抑え、利益を出すことは会社として当然ですから、弊社のような小さな会社ではむしろ自然な選択だと思っています。たとえば、(不動産鑑定業者であまり見かけたことはありませんが)豪華なオフィスを構え、最新の高価な家具を揃えたとしても、それが仕事の本質に直結するとは限りません。むしろ、必要な部分にしっかりと資金を投じることが大切だと思っています。
運営費用を抑えることで、鑑定報酬も適正な価格でご提供することができます。お客様にとっても、過度な経費をかけた結果として高額な料金を請求されるよりも、必要なコストだけで質の高いサービスを受けられる方が、納得感があるのではないでしょうか。
一方で、「もっと自由にお金を使うべき」という考え方もあります。特に、仕事のモチベーションを上げるために快適な環境を整えたり、効率を上げるために最新の設備を導入することは重要だという場合もあるでしょう。たとえば、高級な椅子やデスクを揃えれば、長時間の作業でも疲れにくくなり、生産性が向上するかもしれません。また、豪華なオフィスを持つことで企業としての信頼感を高め、より多くの顧客を引き寄せる効果が期待できるかもしれません。
私もこうした考えを否定するつもりはありません。事業の方向性や目指すスタイルによって、どこに投資するかは人それぞれです。限られた資源の使い方も、それぞれの考え方や状況によって違ってくるでしょう。私自身は、貧乏学生時代を過ごし、就職氷河期の真っただ中を経験し、さらに長いデフレの時代を生きてきました。その影響もあってか、(良し悪しは別として)質素倹約が骨の髄まで染みついており、無駄な出費を抑えながらも必要な投資を見極めることが大切だと思うようになったのかもしれません。
職業柄、医者や地主、事業オーナーといった資産家と仕事をさせていただく機会があります。彼らのように高収入であっても、派手な生活をせず、堅実な生き方をされている方は多く、その姿勢に学ぶことも少なくありません。本当のお金持ちは、車は手頃な国産車に乗り、外見や家に過度なお金をかけることはありません。
考えてみてください。周りからお金持ちだと思われて得をすることなど、ありますか?・・・ありませんよね。せいぜい見栄をはれるくらいでしょうか。その見栄もマイナスにこそなれど、プラスにはなることはありません。彼らは見た目を飾るよりも(むしろなるべく目立たないように生き)、本当に大切な部分に時間やお金を投資することが、より良い仕事や人生につながると考えています。
これは、ただの「ケチ」とはまったく異なります。本多静六の言葉にあるように、「ケチ」とは本来出すべきものを出さず、義理人情を欠いてまで欲張ることを指します。一方で「節約」は、出すべきところにはしっかり出し、義理人情も尽くしつつ、自分自身には必要以上の贅沢をせず、一切の無駄を省くことです。(本多静六「私の財産告白」より引用)
私も、仕事においては適正な価格で質の高い鑑定を提供するために、必要なところにはしっかり投資し、無駄な部分は省く。決して派手な仕事環境ではありませんが、このシンプルな経営方針が、仕事をいただくお客様や融資を受ける銀行からの信頼につながると考えています。質素倹約は不自由ではなく、むしろ私にとっては理にかなった生き方です。
この「地道にコツコツ」という姿勢は、不動産鑑定士という職業にも非常に合っています。鑑定業務は、一つひとつの物件を丁寧に調査し、膨大なデータを分析しながら、慎重に結論を導き出す仕事です。毎日毎日、延々とその作業が続きます。そこにスマートは要素はほとんど見当たりませんが、積み重ねた知識と経験が信頼性の高い鑑定につながります。
派手さはないですが、地道にやっていくのが性に合っていますし、何よりそういう仕事の方が自分も落ち着きます。これからも、ひとつひとつのご依頼に対して丁寧に取り組み、お客様に安心していただけるよう努めていこうと思います。