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不動産鑑定とエンジニアリング・レポート

不動産鑑定とエンジニアリング・レポート

投資用不動産の不動産鑑定評価を行う場合、「エンジニアリング・レポート」を活用するケースが多くあります。

エンジニアリング・レポートとは、不動産の物理的な現状の調査結果をまとめた報告書のことです。投資用不動産の収益性は管理運営の能力のほか、対象不動産の物理的性能によるところも大きいため、本報告書を参考にして物理的性能を把握しならが鑑定評価の作業を進めていくことになります。

エンジニアリング・レポートを活用する目的は、不動産のキャッシュフローに大きな影響を与えるリスクを事前に把握し、当該リスクを不動産鑑定評価にも反映させることです。

今回はエンジニアリング・レポートというやや専門的な分野にはなりますが、不動産鑑定におけるエンジニアリング・レポートについてまとめてみました。

エンジニアリング・レポートの種類

鑑定評価上、エンジニアリング・レポートとして採用する報告書には複数の種類があります。

今回はその中から代表的な4つのエンジニアリング・レポート、「建物状況調査報告書」、「建物環境リスク評価報告書」、「土壌汚染リスク評価報告書(フェーズⅠ)」、「地震リスク評価報告書」についてご説明します。

建物状況調査報告書

建物状況調査報告書とは、建物・設備等の劣化状況、建築基準法及び関係法令に対する遵守状況、更新・改修の履歴・計画、修繕更新費用(緊急・短期・長期)、再調達価格等に係る事項を記載した報告書です。

もう少し平たく言うと、対象不動産が確認申請や設計書通りに施工されていることを前提として、遵法性や劣化の状況、使用における安全上のリスクの有無などを調査しています。

これにより、建物の性能・機能を本来あるべき水準に維持するための修繕・更新費用を算出することを目的としてます。

建物環境リスク評価報告書

建物環境リスク評価報告書とは、建物を原因とする環境面のリスクを調査した報告書です。

具体的には、アスベスト含有吹付け材、PCB、その他オゾン層破壊ガス、大気汚染、危険物・特殊薬液貯蔵施設、空気環境等に関する有害物質の使用等に係る事項等を記載しています。

建物所有者から提供された設計図書、管理資料や現地調査、一般公開されたデータなどを根拠として、建物維持管理上で留意すべき事項と改善を要する環境リスクの有無や遵法性を把握することを目的としています。

土壌汚染リスク評価報告書(フェーズⅠ)

土壌汚染リスク評価報告書(PhaseⅠ)とは、土地利用履歴、現地視察・ヒアリング、公的な環境情報、地形・地質及び地下水に関する調査等を基に、対象地及び対象地周辺に起因する土壌汚染に係る事項を記載した報告書です。

同報告書では、公開された記録、資料などをもとに、敷地内の土壌汚染の可能性について調査しています。既存建物の建設状況によっては既に汚染範囲が解消していることもあります。また、地形地質から見た近隣や周辺部からの汚染の可能性の有無についての調査も行われます。

土壌汚染リスク評価報告書「フェーズ1」、「フェース2」などにわかれますが、ここで言うフェーズ1では土壌・地下水などの試料(サンプル)採取は行いません。

地震リスク評価報告書

地震リスク評価報告書とは、地震による直接的な被害損失を建物の耐震性、立地、統計的手法等により予測・定量化した調査事項をまとめた報告書です。

対象不動産の地震による経済的損失を予測する地震リスク分析の確率値の一指標であるPML(Probable Maximum Loss)値等の地震リスク分析結果等を記載しており、簡易評価、詳細評価等に分かれます。

地震リスク評価報告書は物件としての安全性や地震保険の付保、予想される損失額の資金留保の参考として活用することを目的としています。


エンジニアリング・レポートが必要とされる理由・活用方法

では、そもそも「なぜエンジニアリング・レポートが必要とされるのか?」についてご説明していきます。

鑑定評価に必要となる建築物・設備等の状況、アスベスト、土壌汚染、地震リスク等の専門性の高い個別的要因に関する調査においては、不動産鑑定士のみの調査では十分な調査を行えない場合があります。

このため、不動産鑑定士以外の専門的知識を有する者が調査を行い、報告書としてまとめたエンジニアリング・レポートの活用が必要となるのです。

エンジニアリング・レポートの内容は、対象不動産の物理的な状況を調査、分析した専門家の意見であるので、その調査範囲及び調査レベル、限界を十分に認識した上で、個別分析(投資適格性の判断も含む。)の有用な手段として活用すべきとされています。

ただし、エンジニアリング・レポートの記載内容が価格形成要因の把握のためには不十分な内容であったり、調査項目自体がない場合は、当該項目に関して、追加的な不動産鑑定士の調査の実施と根拠付け等が必要となります。

エンジニアリング・レポートの活用例

次にエンジニアリング・レポートの活用例をご紹介します。

例えば、依頼者の事情により「エンジニアリング・レポートの取得が間に合わない!」と先方担当者より伝えられた場合、不動産鑑定士はどのように対応すればよいのでしょうか?

エンジニアリング・レポートの取得が間に合わない場合で、かつ不動産鑑定士の通常の調査では対象不動産の価格形成について重大な影響を与える要因が十分に判明しない場合には、鑑定評価書の納期を延期する等の対応の可否を依頼者に確認のうえ、納期の延期が可能であれば処理計画を再策定する必要があります。

ただし、エンジニアリング・レポートに代替するものとして、不動産鑑定士自ら調査を行う等の対応で対象不動産の価格形成について重大な影響を与える要因が十分に判明する場合にはこの限りではありません。

ここで言う自ら調査を行うとは、文字通り自分で調査すること及び他の専門家に委託して調査し、それを分析し判断して活用することも含んでいます。

この場合、対応した内容及びそれが適切であると判断した理由について、鑑定評価報告書に記載しなければなりません。

エンジニアリング・レポート作成者に説明を求める箇所

案件によっては、不動産鑑定士は依頼者を通じて、エンジニアリング・レポート作成者から説明を求めるべきケースもあります。

この章では、そのようなケースについて具体例を交えながら解説していきます。

土壌汚染の詳細調査について確認を求めるケース

例えば、エンジニアリング・レポートの土壌汚染リスク評価報告書(フェーズⅠ)のドラフトにおいて、「土壌汚染の可能性があるため、詳細調査を推奨する。」と記載されているにも関わらず、フェーズⅡの詳細調査が未実施であったケースを想定します。

この場合で、さらに不動産鑑定士が独自に行った土地・建物の閉鎖登記簿による調査、過去地図による調査、地元精通者への聴聞調査においては、対象地は過去に「火薬製造所」としての土地利用履歴があり、かつ有害物質の使用及び排出状況が不明であることから、土壌汚染が存在する可能性が否定できない状況にもあるとします。

このようなケースでは、当該土壌汚染に係る要因が対象不動産の価格形成に影響を与える可能性も否定できないことから、依頼者を通じてエンジニアリング・レポート作成者にフェーズⅡの詳細調査について説明を求めなければなりません。

そして仮にフェーズⅡの詳細調査を未実施である場合には、追加要請の可否について確認する必要があります。

地震リスク調査について確認を求めるケース

次に地震リスク調査の追加調査を行うケースをご説明します。

例えば、エンジニアリング・レポートの地震リスク評価報告書(ドラフト)における地震リスクについて、簡易評価(※1)によるPML値(※2)は高く、一般的には地震保険の付保が必要と判断されるような値であったケースを想定します。

※1:統計的な手法による分析で、現地調査・構造検討等は行わない調査のこと。
※2:地震による損失リスクの大きさを示す値のこと。

仮に地震保険の付保が必要となる場合、当該要因が対象不動産の価格形成に影響を与える可能性も否定できないことから、依頼者を通じて、エンジニアリング・レポート作成者に対して、詳細評価(※3)等の追加調査について説明を求めなければなりません。

※3:対象建物の設計図書等の情報及び現地調査に基づき解析的な手法による分析を行うこと。

仮に詳細調査が未実施である場合には、追加要請の可否について確認する必要があります。

終わりに

いかがだったでしょうか?

今回は不動産鑑定とエンジニアリング・レポートというテーマでまとめてみました。

やや専門的な分野になりますが、投資用不動産を扱う不動産鑑定士では必須事項ですし、不動産の評価は不動産鑑定士のみならず、多方面の専門家の協力も得ながら評価を行っていることがおわかりいただけたかと思います。

どなたかのお役に立ちましたら幸いです。

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