ヤマトホールディングスは5月21日、荷主企業や他の物流会社と共同で輸送を行う新会社「Sustainable Shared Transport(SST)」を設立しました。これは、2024年問題(トラックドライバー不足)に対応するためとされています。
SSTは、荷主と物流会社の運行情報をつなぐ共通システムを構築し、効率的な輸送を目指しているとのこと。これにより、ドライバーの労働時間を削減し、温室効果ガスの排出量も削減する計画です。
本コラムでも、「セイノーホールディングスと日本郵便グループの業務提携」や「旧日立系ロジスティードがアルプス物流を買収」など、物流業界再編の動きについて書いてきましたが、他の物流会社も共同輸送を進めており、業界再編の流れは加速しています。
物流業界の変革と不動産市場への影響
業界再編の動きは、物流業界全体に大きな変革をもたらすとともに、不動産市場にも大きな影響を与えることが予想されます。
2024年問題を課題とした共同輸送の推進により、物流拠点の再編が進むことは間違いありません。ヤマトの新会社設立により、物流会社間での連携が強化され、効率的な物流網の構築が進むことで、物流拠点の需要と配置が大きく変わるでしょう。
これにより、従来の物流拠点が持つ不動産価値や、今後新たに設置される物流拠点の価値が見直される可能性もあります。
共同輸送の推進による物流拠点の再編
もう少し具体的に解説します。現在の物流業界では、多くの企業が独自の物流拠点を持ち、それぞれが自社の荷物を個別に運んでいます。このため、トラックの積載率が低く、効率的とは言えない状況が続いています。
トラックが空の状態で走ることも多く、これがコスト増大や環境負荷の原因となっています。また、物流拠点の場所や規模が企業ごとにばらつきがあり、全体としての最適化が図られていませんでした。
ヤマトホールディングスが設立した新会社SSTは、物流会社間での共同輸送を推進することで、これらの課題を解決しようとしています。具体的には、荷主企業と物流会社の情報を一元化し、効率的な輸送計画を立てるシステムを導入します。これにより、各社が持つ荷物を一つのトラックにまとめて運ぶことができ、トラックの積載率を大幅に向上させることが期待されています。
共同輸送の推進により、各企業が個別に持っていた物流拠点の役割が変わってきます。例えば、近隣にある複数の企業の物流拠点を統合し、共同で利用する大型のハブ拠点を設けることが可能になります。このハブ拠点を中心に、各地の配送センターや中継拠点を効率的に配置することで、全体の物流網が最適化されます。
具体的には、以下のような変化が考えられます。
- ハブ拠点の設置:大都市圏や交通の要所に大型のハブ拠点を設け、ここで各社の荷物を一括して管理・仕分けします。
- 中継拠点の増設:長距離輸送の途中で荷物を一時的に保管・積み替えるための中継拠点を設置し、効率的なルートを確保します。
- 小規模拠点の統合:これまで個別に運営されていた小規模な物流拠点を統合し、共同利用することで運営コストを削減します。
例えば、東京、大阪、名古屋間での共同輸送。このエリアでは、新たに設置されるハブ拠点で各社の荷物を集約し、一括して仕分けた後、共同でトラックに積み込み、目的地まで輸送します。これにより、各企業が個別にトラックを走らせる必要がなくなり、効率的な輸送が実現します。
また、地方への輸送でも同様に、主要都市に設けた中継拠点で荷物を一時保管し、効率的なルートを設定して配送することで、トラックの積載率を高め、環境負荷を軽減することができます。
労働時間の短縮と省人化によるコスト削減効果
共同輸送システムを導入することで、以下のような労働時間の短縮が可能になります。
- 積載率の向上:複数の荷主の荷物を一つのトラックにまとめることで、トラックの積載率を高めます。これにより、トラックの運行回数が減少し、運転手の労働時間が短縮されます。
- 効率的なルート設定:荷主と物流会社の情報を一元管理することで、最適なルートを設定します。これにより、移動時間が短縮され、運転手の拘束時間が減少します。
また、省人化の具体的な効果は以下の通りです。
- 共同輸送による運行効率の向上:共同輸送により、トラックの運行効率が向上し、一度に運べる荷物の量が増加します。これにより、必要なトラックと運転手の数が減少します。
- 自動化技術の導入:自動化技術を活用することで、荷物の積み下ろし作業や仕分け作業を効率化します。これにより、現場での人手が大幅に削減されます。
例えば、共同輸送システムを利用することで、東京から大阪への長距離輸送がより効率的になります。従来は各社が個別にトラックを運行していましたが、共同輸送により、1台のトラックに複数の荷主の荷物をまとめて運ぶことができます。これにより、1回の運行でより多くの荷物を運ぶことができ、トラックの運行回数が減少します。この結果、運転手の労働時間が短縮され、燃料費や人件費が削減されます。
労働時間の短縮や省人化によるコスト削減は、不動産市場にも波及効果をもたらします。物流業界におけるコスト削減は、企業の競争力を高め、新たな投資を促進する可能性があります。
これは不動産への投資として現れる可能性があります。特に、物流拠点や周辺インフラの整備が進むことで、地域の不動産市場が活性化することが期待されます。
環境負荷軽減
温暖化ガスの削減という目標も、不動産市場に影響を与えるでしょう。環境に配慮したサステナブルな物流拠点は、今後の不動産市場において高く評価されます。
現在の不動産投資市場では、環境性能の高い不動産は長期的な視点で見ても価値が高く、投資対象として魅力的となっています。
まとめ
ヤマトホールディングスの共同輸送促進の動きは、物流業界全体に変革をもたらし、不動産市場にも多大な影響を与えることが予想されます。
物流拠点の再編、コスト削減効果、環境負荷軽減など、多方面での効果が期待される中で、これらの動きを注視し、市場の変化に対応していきたいと思います。