国土交通省は、2025年度に木造のオフィスや店舗の耐久性を第三者が評価する新制度を導入すると発表しました。この新制度では、特に防水処理を中心に耐久性を評価し、基準を満たせば木造建築物の法定耐用年数を現行の2倍以上である「50年以上」と認定します。
これにより、金融機関からの長期融資が受けやすくなり、木造建築の普及が進むことが期待されています。
住宅性能評価レベル3を取得した木造建築物
近年、住宅においても「住宅性能評価レベル3」(※)を取得した木造賃貸物件が注目を集めています。この背景には、木造建築技術の進化と、入居者が安全性や快適性を重視する傾向が強まったことがあります。
(※)住宅性能評価レベル3とは、住宅性能表示制度で定められている耐震性の中で最も高いレベル、耐震等級3を指します。耐震等級1の1.5倍の地震力に耐えられる性能を有しており、震度6強~7の大地震でも軽い補修程度で住み続けられるレベルです。また、東日本大震災や熊本地震などでも倒壊していないことが調査で明らかになっています。
私自身も現在、千葉市中央区に木造の新築賃貸住宅「Lily Residence」を開発中であり、住宅性能評価レベル3を取得したことで、物件の競争力向上を目指しています。しかし、このような取り組みには大きな可能性がある一方で、注意が必要な点もあります。
木造賃貸物件の魅力
■ コストパフォーマンスの良さ
木造は、RC造(鉄筋コンクリート造)に比べて建設コストが抑えられるため、初期投資を比較的低く抑えることができます。また、工期が短いため早期に収益化が可能です。
■ 快適な居住空間
木造建物特有の温かみのある空間は、若年層からファミリー層まで幅広い層に人気があります。特に、断熱性能を高めた設計により、年間の冷暖房コスト削減にもつながります。
■ 環境への配慮
木材は再生可能な資源であり、RC造に比べて二酸化炭素排出量が少ないため、SDGs(持続可能な開発目標)にも貢献できる点が評価されています。
見落とされがちな課題
■ 耐久性と維持管理
一般的に、木造建物はRC造と比較して耐用年数が短い傾向があります。住宅性能評価レベル3を取得している場合でも、法定耐用年数は木造でも30年と長期になりますが、鉄筋コンクリートなどと比較すると経年劣化やメンテナンスの頻度が長期的なコストとなります。
木造物件の耐久性を確保するためには、防腐・防蟻対策が不可欠です。特に湿気の多い日本の気候では、基礎や外壁部分のメンテナンスが重要です。しかし、これを怠ると建物寿命が大幅に短縮され、修繕費が想定外に膨らむリスクがあります。
■ 騒音対策の課題
木造物件はRC造に比べて壁の遮音性能が劣るため、隣室や上下階からの音が問題となるケースがあります。特に、単身者向けの賃貸物件では、生活リズムの異なる入居者間のトラブルが発生することもあります。これを解決するためには、遮音シートの設置や床材選定など、初期設計の段階から配慮が求められます。
市場環境の影響と今後の展望
■ 金利上昇の影響
昨今の金利上昇により、金融機関からの借入条件が厳しくなり、不動産投資の利回りがシビアになっています。木造はRC造に比べて利回りが確保しやすいものの、金利上昇時には借入額と返済計画の見直しが必要となる可能性があります。
■ 建設費高騰と職人不足
ウッドショックや資材価格の高騰により、木造建築のコストも上昇しています。また、熟練した大工の高齢化や職人不足により、質の高い施工ができる工務店の確保が課題となっています。これにより、物件ごとの品質に差が生じる可能性があります。
開発プロジェクトへの反映
弊社で開発中の「Lily Residence」では、これらの課題に対処するため、以下のような対策を講じています。
- 防音対策の強化:床下に遮音材を配置し、騒音問題を軽減。
- メンテナンス計画:開発段階から防腐剤処理や雨漏り対策を盛り込んだ維持計画を策定。
- 断熱性能の向上:高性能断熱材を採用し、夏の熱気や冬の寒気を防ぐ構造を導入。
こうした取り組みにより、入居者が安心して快適に暮らせる住環境の提供を目指しています。
まとめ
住宅性能評価レベル3を取得した木造賃貸物件は、安全性と快適性を両立させた新しい選択肢として期待されています。しかし、耐久性や維持管理の負担、金利や建築費用の変動リスクなど、注意すべき課題も存在します。
賃貸物件の運用では、これらの要因をバランスよく見極めた上で、入居者が納得できる情報を提供することが重要だと感じています。