日本経済新聞の記事で「渋谷区立神南小学校の再整備事業」にて、学校の上空の空中権(※)が約100億円の価値があり、その移転によって校舎の建て替え費用が賄われることとなったとのニュースがありました。
(※)空中権とは、土地の上空の空間を使用する権利や、建物の容積率のうち未利用の分を移転する権利を指します。空中権の移転は「容積率移転取引」とも呼ばれ、再開発地区のある建物を建て替える際に、その建物を高層化しない代わりに余った容積を売却する取引です。この取引によって、既存の建物のオーナーは売却金を得ることができます。
この空中権は、小学校の向かいにあるマンションに移転され、開発事業者が小学校の整備も担います。お金のやり取りはなく、開発業者が対価として学校の建設を行う形です。神南小学校は築60年を迎え、2029年に新校舎の竣工が予定されています。
主観を交えて
空中権の活用は、不動産鑑定士としてとても興味深いテーマです。都市空間の有効利用がますます重要視されている中で、空中権の取引がどのように街づくりに貢献できるかを学び続ける必要があります。
例えば、2000年代初頭、東京駅の丸の内駅舎の改修費用をJR東日本が空中権の売却によって賄った事例は、不動産業界にとって大きな出来事でした。500億円もの資金が得られたことで、歴史的建築物の保存と同時に、新たな価値が創出されました。このような事例を見ると、空中権の有効活用が都市の発展にどれだけ大きな可能性を秘めているかがわかります。
また、渋谷区立神南小学校の空中権移転に関しても、マンション開発業者が校舎の再整備費用を担うという新たなモデルは、公共施設の更新にとって新しい手法です。しかし、その一方で、こうした開発が地域不動産市況や周辺地価に与える影響については慎重に検討すべきであり、私たち不動産鑑定士もそのバランスを見極めていく必要があります。
空中権の取引が都市の活性化に寄与する一方で、周囲の住環境や景観に与える影響も無視できません。地域住民の視点も大切にしながら、こうした取引が長期的に継続していけばよいと思っています。
空中権の活用はその収益性の高さからまだまだ可能性を秘めていますが、日々の仕事を通じて、そのメリットと課題を丁寧に見つめ続けることが大切だと感じています。