2025年4月、世界経済は再び大きな転換点を迎えています。
アメリカでは、トランプ大統領が全輸入品に一律10%、さらに日本製品には追加24%という高関税を正式発動。鉄鋼やアルミニウムをはじめとする建設資材、自動車産業などに深刻な影響を及ぼしています。
一方、日本国内でも日銀がマイナス金利政策を解除し、現在の政策金利は0.5%。急速な利上げには慎重な姿勢を見せつつも、金利が上昇局面に入ったことは明らかであり、国内経済、そして不動産市場にじわじわと影を落とし始めています。
この「関税ショック」と「金利上昇局面」という二重の圧力が、日本の不動産市場、特に不動産鑑定の現場にどう影響しているかを、改めて整理しておこうと思います。
関税ショックが建築費を押し上げるメカニズム
まず、トランプ関税ショックによる建築コスト高騰の流れについて、整理しておきます。建設業界では、建材(鉄骨、アルミ建材、設備機器など)や原材料(鉄鉱石、アルミ原料)を海外から調達するケースが多くあります。
今回の関税発動により、
- 輸出向け製品の価格競争力が失われる
- 製造コストの上昇分を国内販売価格にも転嫁せざるを得なくなる
- 原材料の国際価格自体が高騰する
といった影響が発生しています。
さらに、関税措置による世界的な物流混乱、そして円安進行も重なり、輸入建材や輸入設備機器の価格も上昇しています。つまり、「輸出向けだけではない」「国内の建設費も押し上げられている」というのが現状です。
例えば、私が最近携わった千葉県の賃貸マンション開発案件の評価でも、直近で建築費の大幅な増加が見込まれ、事業収支は大幅に悪化しました。結果、収益価格も当初の想定より下方修正を余儀なくされました。
日銀利上げが融資環境を引き締める
一方、国内では日銀がマイナス金利政策を終了。2025年4月現在、政策金利は0.5%で据え置かれているものの、住宅ローン金利、収益不動産向け融資金利は確実に上昇基調にあります。
金融機関の動きも変わりつつあり、特に収益不動産案件では
- LTV(融資比率)の引き下げ
- 想定利回り(キャップレート)の引き上げ要求
- 審査基準の厳格化
といった対応が進んでいます。これにより、以前であれば成り立っていた収支計画が見直しを迫られ、物件価格自体にも下押し圧力がかかり始めています。
現在の不動産鑑定に求められる視点
このような激動の環境下で、不動産鑑定士に求められる役割も変わっています。
単に「過去の取引事例を並べて、平均的な価格を出す」だけでは、十分な評価とは言えません。
今、私たちに求められているのは、次の3つの視点です。
■ ① コスト上昇リスクを正しく織り込む
建築資材の高騰が続く中、従来の建築単価ベースでは実勢を反映できないケースが増えています。例えば積算価格(原価法)においては、直近の建築会社ヒアリングや物価動向をもとに、最新の建築費水準を適切に反映させる必要があります。
また、収益還元法でも「地価上昇→物価上昇→賃料上昇期待」という一方通行の楽観シナリオだけでなく、「建築費高騰→需要減退→賃料低迷リスク」という側面にも注意を払う必要があります。
■ ② キャップレート(還元利回り)の見直し
金利上昇局面においては、キャップレートも見直しが必要です。金利が上がれば、投資家はより高いリターンを求めるため、キャップレートは上昇圧力を受けます。
DCF法や直接還元法では、以下を慎重に検討する必要があります。
- 想定キャッシュフローの見直し
- 割引率(IRR)の引き上げ
■ ③ 地域別・業種別のリスクを丁寧に分析する
地方圏や工業地帯では、今回の関税ショックによる輸出産業悪化リスクが色濃く存在します。一方、都心部の超高級住宅市場などは、海外富裕層マネー流入で堅調に推移する可能性もあります。
よって、すべてを一律で論じるのではなく、「地域別」「セクター別」にリスク分析を細かく行うことが、鑑定評価の信頼性を左右します。
まとめ
2025年春、世界経済はトランプ大統領の大規模関税政策によって揺れ動いています。
その波は、日本国内の建築費高騰、輸出産業(特に自動車産業)の打撃、地方経済の冷え込みリスクといった形で、不動産市場にも押し寄せています。
これに加え、日銀の利上げによる金利上昇もじわじわと資金調達環境を引き締めており、不動産市場は「コスト高」と「資金調達コスト上昇」という二重の圧力にさらされています。
こうした局面において、不動産鑑定士に求められるのは、単なる過去データの延長ではなく、
「現在進行形の変化」
「地域や業種ごとのリスク」
「未来に向けた合理的なリスクシナリオ」
を丁寧に読み取り、それを価格に織り込み、依頼者にわかりやすく伝えることです。
変化の激しい今だからこそ、「過去の数字だけにとらわれない現場感覚」、「国際情勢やマクロ経済を読み解く視野」、「リスクを適切に開示するスタンス」が、不動産鑑定士にとってますます重要な資質になってきています。
あらためて、「社会の変動を反映した鑑定評価」を意識しつつ、正確な評価のために日々現場で向き合っていこうと思います。