東京では「億ション」と呼ばれる高額物件が常態化する一方、アメリカでは金利高にもかかわらず新築住宅販売件数が堅調に推移しています。
住宅市場における日米の動きは対照的に見えますが、それぞれの国の背景を知ると、意外な共通点や違いが見えてきます。本記事では、両国の住宅市場の動向を比較し、そこにある意味を深掘りしてまいります。
景気の“先行指数”として注目される住宅販売
住宅市場は経済全体の動向を先取りする「先行指標」としても注目されています。特に新築住宅の販売件数は、建設業者の意欲や購入者の所得水準、そして将来への期待が反映されやすい指標です。
国 | 指標 | 変化(前月比) | 特記事項 |
---|---|---|---|
アメリカ | 新築住宅販売件数 | +6.0%(72.4万戸) | 高金利でも販売回復、特に南部地域の需要が旺盛 |
日本 | 中古マンション価格(東京23区) | +4.0%(70㎡あたり9,501万円) | 過去最高を更新、都心6区ではすべて1億円超え |
アメリカでは「販売件数」が、日本では「販売価格」が上昇しており、両国の住宅市場が異なる軸で動いていることがわかります。
米国:住宅は今も「住まうための場所」
アメリカでは、依然として住宅ローン金利が高水準にありますが、それでも3月の新築住宅販売件数は前月から6%増加しています。特に南部地域では雇用の安定や人口増加を背景に、住宅需要が高まっているようです。
これは、住宅が投資対象というよりも「住まうための場所」として、生活者の実需に基づいて購入されていることを示しています。高金利下でも需要が支えられているのは、そうした「暮らしの根ざし」があるからだと感じます。
日本:「住む」よりも「持つ」が主役に?
一方の日本では、東京23区の中古マンション平均価格が70㎡あたり9,501万円と、過去最高を記録しました。都心6区では平均価格がすべて1億円を超え、いわゆる「億ション」時代が完全に定着しています。
しかしこの価格上昇には、「実需」ではなく、「資産保全」や「投資対象」としての需要が大きく関与しています。高額物件を実際に購入しているのは海外の富裕層や投資家が中心で、居住目的での購入は限定的です。
これは、不動産が「暮らすための空間」から「資産として持つモノ」に変わりつつある証左とも言えるでしょう。
比較から見えてくる、日米住宅市場の本質的な違い
観点 | アメリカ | 日本 |
---|---|---|
市場の動き | 成約件数が回復 | 価格が上昇 |
金利の影響 | 高金利下でも販売回復 | 富裕層にローン利用は少なく影響限定的 |
住宅の位置づけ | 住まいとしての需要が中心 | 投資・資産保全の傾向が強い |
このように、米国では「人が住む」という目的が市場を牽引しているのに対し、日本では「資産として保有する」という側面が大きくなってきているように感じられます。
価格の裏にある“生活感”の欠如
価格が上がるということは、不動産の評価額も上がるということです。景気としては歓迎される動きではありますが、鑑定士としてはそれが「誰のための上昇なのか」という点は慎重に見極めるべきだと思っています。
東京の高騰ぶりは目を見張るものがありますが、その一方で、住宅ローン金利も上昇期を迎え、一般の生活者にとっての住宅取得の難易度は確実に高まっています。高価格が示すのは必ずしも「健全な市場」とは限りません。ときにそれは、市場が過熱し、生活者の声が届きにくくなっているサインでもあります。
まとめ:どちらの市場が“健全”かを考える
両国の住宅市場を比較して感じるのは、次のような対照です。
評価項目 | アメリカ | 日本 |
---|---|---|
住宅の役割 | 実需重視 | 資産性重視(都心部) |
市場の柔軟性 | 地域別に需給調整が進む | 東京一極集中 |
中長期的な安定性 | 社会的基盤に基づく | 投資資金による上昇リスクあり |
個人的に今後注目していきたいのは、日本においても住宅の“本質”を見直し、「誰のための住宅か」という視点が再び重視されるようになるかどうかということです。
住宅とは、本来「暮らすための器」でした。価格の動向はもちろん重要ですが、その価格の裏側に“人の暮らし”があるのかどうかを、忘れてはならないと思っています。