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空き家売却のタイミング

空き家売却のタイミング

実は今、私自身も「空き家の売却」をめぐって迷っているひとりです。
実家の一部が空き家になり、売却するか、持ち続けるか、あるいは解体して更地にするのか――鑑定士という立場を離れても、なかなか判断は難しいものです。

特に困っているのは、建物が大きすぎて解体費が高額になってしまうこと。
一方で、地方の土地は安く、解体費と売却価格を差し引くと「これは本当に売る意味があるのか?」という気持ちになってしまいます。

今回の記事では、自分自身の実体験を交えながら、「空き家の売却を検討する際に押さえておきたい視点」を整理してみたいと思います。

1. 空き家は持っているだけでコストがかかる

空き家を維持していると、毎年一定のコストがかかってきます。
以下は、空き家の年間維持費用の一例です。

費目年額(目安)
固定資産税・都市計画税約7万円
除草・清掃・簡易管理約10万円
屋根や外壁などの軽微な修繕約10万円(※突発的)
合計約27万円(年)

また、建物が古くなるにつれて、倒壊・雨漏り・害獣・不法侵入といったリスクコストも年々高まっていきます。

2. 解体費は確実に上がっている

かつては、木造2階建て住宅の解体費は坪3~4万円と言われていました。
しかしコロナ以降、人件費・処分費・重機費用などがじわじわと上昇し、現在では坪5万円〜6万円が当たり前という印象です。

例えば、田舎によくある規模の大きな住宅(延床70坪程度)なら、解体費は以下のようになります。

項目費用
解体費用(坪5.5万円×70坪)約385万円
外交撤去費用(塀・樹木・庭石等)約50万円
合計約435万円前後

仮に売却価格が700万円程度(≒土地価格)だとすれば、解体費のほか、仲介手数料、測量費用なども売主負担ですので、売るためにほぼ利益が消えてしまう計算です。
私自身も、「この出費をしてまで売る意味があるのか?」という壁にぶつかっています。

3. 税制優遇を活かせるかどうかがカギになる

相続した空き家を売却する際、「被相続人居住用財産の3,000万円控除」という特例があります。
条件を満たせば、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度で、売却益に対する税金を大きく軽減できます。

ただし、以下のような制約があります。

  • 建物が旧耐震基準(昭和56年5月以前)であること
  • 解体するか、耐震改修をしてから売ること
  • 譲渡価格が1億円以下であること
  • 相続後、一定期間内に売ること(原則、相続から3年目の年末まで ※令和9年末まで延長)

この制度を活用することで、「手残り」が大きく改善する可能性があります。
しかし実際には、解体に時間がかかる測量や境界確認に予想以上の時間が必要、などで期限を逃してしまう例も見られます。

4. 「売らずに持つ」リスクも冷静に見つめておく

空き家の売却を悩む背景には、「今はまだ売りたくない」という心理があることも多いと思います。
長らく実家に住んでいない私自身でも、実家という思い入れのある家を壊すことに、どこかためらいを感じています。

ただ、持ち続けるには以下のようなリスクがあることも忘れてはいけないと思います。

  • 近隣からの苦情(草木・ゴミ・動物など)
  • 台風・地震などでの被害発生と賠償リスク
  • 建物がさらに劣化し、土地価格が下落すると「売れない状態」に近づいてしまう

特に、将来的に子ども世代に引き継がせる場合、「売却しにくい空き家」という負担を渡すことにもなりかねません。

5. 売却方針を考えるときの整理シート(簡易版)

空き家の売却方針を考える際は、以下のような整理表を作ってみるのもおすすめです。

観点質問答えの例
建物の状態再利用できそうか?×(雨漏りあり・築50年)
土地の価値更地で売れる見込みは?△(接道狭小、再建築不可)
解体費費用に見合う売却益が出るか?×(費用が利益を上回る)
税制優遇3,000万控除は使えるか?○(条件は満たす)
家族の意向売却に同意はあるか?△(父は反対気味)など

おわりに

空き家の売却は、単なる経済的な判断だけでは割り切れない場面が多くあります。
私自身、鑑定士であるからこそ、「頭ではわかっていても踏み切れない」という感覚を、痛いほど実感しています。

ですから、この記事をご覧の方が「今、売るべきかどうか」を迷ったとき、価格や制度といった“データ”と、心情や思い出といった“感情”の両方を丁寧に整理することが大切だとお伝えしたいです。

その上で、焦らず、しかし“いつまでも判断を先延ばしにしない”。
それが、後悔しない空き家との向き合い方ではないかと思っています。

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