不動産業界における「囲い込み」問題は長年にわたって存在し、取引の透明性や公正さを損なってきました。
囲い込みとは、不動産仲介業者が売却依頼を受けた物件を他社に紹介せず、自社の買い手を優先させることで、売り手と買い手の両方から手数料を得ようとする行為です。この行為は、売却を遅らせたり、場合によっては売り手の利益を損なう結果を招きます。特に高値での購入希望者が現れても、自社の顧客を優先させるため、低い価格での売却を強いる場合もあるでしょう。
国土交通省はこの問題に対応するため、2025年から宅地建物取引業法の通達を改正し、囲い込みを行った仲介業者に対して是正の指示処分を行うことを決定しました。具体的には、物件情報を公的なデータベース「レインズ」に登録し、取引状況を「公開中」「書面による購入申し込みあり」などのステータスで表示することが義務付けられています。しかし、囲い込みを行う業者は「申し込みあり」と虚偽の情報を掲載し、他社からの購入希望を遠ざけるケースが多発しているのが現状です。
囲い込み規制の強化は非常に重要です。不動産取引の透明性が向上すれば、売り手や買い手双方の利益が守られ、公正な取引が促進されると考えています。弊社ではこれまで囲い込みを行ったことはありませんが、これは囲い込みを行っている多くの仲介業者が直面する課題でもあると思います。また、不動産鑑定士として、日頃から公平性と透明性を大切にしており、今回の規制強化には大いに賛同します。
特に、近年の住宅価格高騰に伴い、中古住宅市場は拡大しており、消費者は新築よりも手頃な中古物件を選ぶ傾向が強まっています。内閣府の令和6年度年次経済財政報告によると、中古住宅取得割合は約30%に達し、10年前の約15%から倍増しています。こうした状況下で、不動産取引の公正性を高めるための囲い込み規制は、ますます重要な意味を持っています。
また、物件の売却を依頼する際には、一般媒介契約をおすすめしています。一般媒介契約では、複数の仲介業者に物件を依頼でき、囲い込みのリスクが低減します。これにより、物件情報がより多くの買い手に広く公開され、最良の条件での取引が成立しやすくなります。特定の業者に依存せず、多くの選択肢を持つことが、売り手にとっての最善の戦略と言えるでしょう。
一方で、専任媒介契約や専属専任媒介契約と呼ばれる形式も存在します。専任媒介契約では、一つの不動産仲介業者にのみ売却を依頼し、売り手が自ら買い手を見つけることは可能ですが、他の業者に依頼することはできません。専属専任媒介契約では、さらに厳しく、売り手が自ら買い手を見つけることもできません。これらの契約形式は、仲介業者が売り手に対してより強いコミットメントを示す代わりに、囲い込みのリスクが高まることがあります。
今後、国土交通省が進める囲い込み規制がさらに厳格化されることで、業界全体の透明性が高まり、不動産取引において、売り手と買い手双方が適正な価格と条件で取引を行うようになることを期待しています。また、不動産鑑定士としても、不動産取引における透明性の確保は極めて重要な要素であり、取引の健全化がさらに推進されることを心から望んでいます。