COLUMN コラム

イラン情勢と不動産市場

イラン情勢と不動産市場

最近、イラン情勢やホルムズ海峡閉鎖の可能性に関する報道を見ていると、決して遠い国の話では済まないなと感じます。
政治や軍事そのものを論じたいわけではありませんが、不動産の仕事をしている立場からすると、こうした国際情勢の緊張は、時間差をもって日本の暮らしや不動産市場にかなり現実的な影響を及ぼします。

不動産は国内の資産です。土地はそこにあり、建物もその地域に根ざしています。ですから、一見すると中東情勢と日本の住宅市場はあまり結び付かないようにも見えます。
ただ、実際にはそう単純ではありません。建物を建てるにも、運ぶにも、維持するにも、エネルギーが必要です。住宅を取得する人も、賃貸住宅に住む人も、最終的には家計の余力の中で住まいを選びます。そう考えると、原油価格、物価、金利、税や社会保険料の動きは、住まいの市場全体にじわじわと効いてきます。

もしホルムズ海峡をめぐる緊張が高まり、原油価格がさらに上昇するような事態になれば、まずコスト全体が押し上げられます。
原油価格の上昇というと、ガソリン代の話として受け止められがちですが、実際にはそれだけではありません。建材の製造コスト、輸送費、工事現場の運営費、設備機器の価格、樹脂製品や金属製品の価格まで、幅広く影響を受けます。建築費はすでに高い水準にありますが、そこにさらに上乗せされる可能性があります。

この影響を最も受けやすいのが、新築市場です。
アパートやマンションはもちろんですが、一般の戸建住宅も例外ではありません。むしろ、戸建住宅の取得市場のほうが、購入する人の生活実感に直結しやすい分、影響が見えやすい面もあると思います。

これまででも、住宅価格は十分高くなっていました。土地価格の上昇に加え、建築費も大きく上がり、住宅ローンの負担もじわじわ重くなっています。そこへさらに原油価格高騰を起点とした資材価格の上昇が加われば、新築戸建住宅を取得しようとする一般の家庭にとって、負担感は一段と強まります。
「欲しいけれど手が届かない」「建てたいけれど予算を超える」「建売住宅でも以前よりかなり高く感じる」――そうした感覚は、今後さらに広がっていく可能性があります。

ここで重要なのは、住宅取得市場は、投資市場以上に家計の現実に左右されるということです。
投資用不動産であれば、将来収益や資産形成の観点から判断する余地があります。しかし、一般の戸建住宅は、最終的にはその家庭の毎月の返済能力に支えられています。住宅ローンの金利が上がれば、同じ借入額でも返済額は増えます。加えて、税金や社会保険料の負担が重くなれば、手元に残るお金は減ります。食料品や光熱費も高くなっている中で、住居費に回せる余力はむしろ縮小していきます。

つまり、住宅を「作る側」のコストが上がっているだけではなく、住宅を「買う側」の負担能力も弱くなっているわけです。
ここが今の不動産市場の厳しいところだと思います。供給側は、建築費や土地代の上昇を価格に転嫁したい。しかし、取得者側は、家計の余裕が乏しく、以前のようには価格上昇を吸収できない。このギャップが広がると、市場は徐々に重たくなります。

賃貸住宅市場でも、構造はよく似ています。
アパートや賃貸マンションのオーナーから見れば、建築費が高くなれば当然、必要な賃料水準も上がります。金利が上がれば、事業収支はさらに厳しくなります。土地が上がれば固定資産税も上がります。維持管理費や修繕も上昇の一途。ですから、「これだけコストが上がっているのだから、賃料も上げたい」という考え方自体は自然です。ただ、その賃料を支払う入居者側も、同じく生活コスト上昇と手取り減少の圧力を受けています。所得が大きく増えていない中で、税や社会保険料の負担が増し、日々の生活費も重くなれば、家賃負担力は強くなりません。結果として、貸す側は上げたい、借りる側は上げられない、という綱引きが起こります。

不動産鑑定士は、日頃から価格や賃料、利回りを数字で見るのが仕事ですが、個人的には、最近はその数字の背景にある家計のしんどさを、以前より意識するようになりました。
不動産は、どうしても供給側の論理だけで語られがちです。建築費が高い、だから価格は上がる、賃料も上がる。理屈としては間違っていません。けれども、最終的にそれを負担する人の財布が追いついていなければ、市場は簡単にはついてきません。

特に戸建住宅市場では、その傾向がはっきり出るように思います。
住宅を取得する一般の家庭にとって、都内の一部を除いて、家は投資対象というより、まず生活の基盤です。立派な建物であっても、月々の返済が苦しければ現実的な選択肢にはなりません。仮に購入できたとしても、その後の生活に余裕がなくなるようでは、本当に良い取得とは言いにくい。以前なら購入できた層が、今は慎重にならざるを得ない。あるいは、購入自体を先送りし、賃貸を続ける判断をする。そうした動きはこれからますます増えても不思議ではありません。

その一方で、賃貸市場に人が流れれば、それで安心かというと、そこもまた単純ではありません。
賃貸住宅に住み続ける人が増えても、家賃負担力そのものが弱っていれば、オーナーが期待するほど賃料を上げられるとは限りません。つまり、取得市場が厳しくなれば賃貸市場が一方的に良くなる、という話でもないのです。
結局のところ、住宅市場全体は家計の可処分所得に支えられています。持ち家であれ賃貸であれ、最終的な負担者は同じ生活者です。その生活者の余力が縮んでいけば、市場全体がじわじわと重たくなっていきます。

こうした局面では、不動産市場の中でも選別が強まります。
立地の良い場所、生活利便性が高い場所、中古など価格帯が現実的な物件、過度な仕様に頼らず堅実に作られた住宅、無理のない資金計画で取得できる住まい。そうしたものは、厳しい環境下でも比較的選ばれやすいと思います。
逆に、土地値も建築費も高く、販売価格も高額になりすぎている物件や、家計に対して返済負担が重すぎる住宅は、以前より慎重に見られるでしょう。賃貸でも同じで、立地や賃料設定に無理があるものは、これからますます選ばれにくくなるはずです。

実務の感覚で言えば、これからは「作れば売れる」「建てれば埋まる」という時代は終わり、もっと当たり前の市場に戻っていくのだと思います。
つまり、その地域に本当に需要があるのか、その価格に持続性があるのか、その家賃を継続的に負担できる人がいるのか、その住宅ローン返済が長期的に無理のないものか。こうした基本を丁寧に見ることが、今まで以上に大切になります。

鑑定士は価格を評価するとき、なるべく強気にも弱気にも振れすぎないよう意識しています。
ただ、今のように外部環境の不安定さが増している局面では、少し慎重なくらいでちょうどいいのではないかと感じます。建築費がさらに上がるかもしれない、金利も上がるかもしれない、家計は今後も楽にならないかもしれない。そうした前提をきちんと織り込んだうえで、それでも成立するかどうかを見るべき時期に入っているように思います。

イラン情勢やホルムズ海峡の問題は、私たち個人でどうこうできる話ではありません。
ただ、その影響を軽く見ず、自分の住まいや不動産の判断にどう織り込むかは、これまで以上に大切になってくるのだと思います。新築アパートや賃貸マンションだけでなく、一般の戸建住宅の取得市場まで含めて、今後はもっと慎重に見ていく必要があるのかもしれません。

不動産の世界では、どうしても前向きな話や強気な見通しが好まれがちです。もちろん、そうした見方が必要な場面もあります。
ただ、今のように外部環境が大きく揺れている局面では、無理をしないこと、数字をごまかさないこと、目先の期待だけで判断しないことが、結果としていちばん大事なのではないかと感じています。

偉そうなことを言える立場ではありませんが、私自身も実務の中で、以前よりいっそう「無理のない評価かどうか」を意識するようになりました。
先のことは誰にも正確には分かりません。それでも、こういう時期だからこそ、少し慎重なくらいの姿勢で一つひとつ判断していくことが、後から振り返ったときに良かったと思えるのではないか、そんなふうに感じています。

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