大学生時代、関西のとある広告代理店のインターン生として1年間働いていたことがある。当時は営業の仕事をやらせてもらっていたのだが、この営業体験は、後の私の社会人生活に大きな影響を与えた(結局、この会社の内定はもらったが、エンジニアになりたかったため就職はしなかった)。
広告代理店では、隣の席に座っていた2歳年上の社員の先輩と営業回りをしていたのだが(ほとんどが飛び込みだった)、この先輩は、営業で頭を下げる術を極めていた。当時、世間知らずの理系大学生だった私は、この「頭を下げる」行為に戸惑いを感じていたが、先輩は「頭を下げることには何の抵抗もない。」と言っていた。
その時は単なる言葉と思っていたが、今ではその深い意味を理解できる。先輩は頭を下げることなどさして問題ではなく、相手のためにこちらが気を遣って気持ちよく話をさせる、つまり「承認欲求を与える側に回ることの重要性」を示していた。
この教訓は、その後の私のキャリアに少なからず影響を与えた。私には営業の才能がなかったが、人間関係やビジネスにおける対人スキルにおいて、私が今日に至るまでの考え方の礎となった。
私が今の職業としている不動産鑑定士や弁護士、公認会計士などの士業は、「先生」と呼ばれることもあり、高学歴でプライドが高くマウンティングが趣味のような人も少なくないが、(それがいいとか悪いとかは別にして)私はその先輩の影響もあってプライドというものを持ち合わせておらず、また、これっぽっちも重要なことだと思っていない。自分が頭を下げることで相手に伝わりやすくなり、スムーズに課題が解決するのであれば、いくらでも頭を下げる。
なお、その先輩はその年に広告代理店を辞め、都内でWEB事業を立ち上げた後、ビズリーチの創業メンバーとなった。現在では、同社の執行役員として活躍されている。
私は、(もろもろ省略するが)起業家とは随分遠く離れたサラリーマン鑑定士(※当時)となって千葉に転勤となった。そしてなんとなく疎遠になり、その先輩と会わなくなってからもう15年以上経つ。
ただ、20代の頃はフリーのエンジニアとして上京した私に先輩は仕事を回してくれたり、東京に友達がいなかった私をよく食事に連れて行ってくれた。そういえば、四国や北海道に旅行に連れて行ってくれたこともあった(四国は2人で行ったが、北海道は先輩とその彼女と私の3人で行った。)。
面白い先輩であったが、このような優しさも、私にとって忘れられない思い出である。