2025年7月1日、国税庁から発表された路線価は全国平均で前年比+2.7%の上昇となり、4年連続のプラス、かつ現行算定方法に変わった2010年以降で最大の上昇率を記録しました。
この「路線価」とは、全国の主要道路に面した標準的な宅地について、全国の不動産鑑定士が地域特性をもとに評価し、国税庁がこれを基に定める相続税・贈与税の算定基準です。地域経済や土地利用の変化を反映するこの制度は、我々不動産鑑定士にとっても、重要な公的評価の一つとなっています。
本記事では、この上昇の要因や背景、今後のリスクなどについて触れてみたいと思います。
■インバウンドと別荘需要が地方の観光地を押し上げる
路線価上昇率の上位に並んだのは、以下のように観光地または都心近郊の利便性に優れた地域です。
順位 | 地域 | 上昇率 | 主な要因 |
---|---|---|---|
1位 | 長野県白馬村 | +32.4% | 夏冬問わぬ観光需要・外国人富裕層向けホテル投資 |
2位 | 北海道富良野市 | +30.2% | 観光客増によるホテル・コンドミニアム建設需要 |
3位 | 東京都台東区(浅草) | +29.0% | 訪日外国人の復活・下町人気 |
4位 | 岐阜県高山市 | +28.3% | 伝統的街並みに対する観光需要 |
5位 | 東京都足立区(北千住) | +26.0% | 交通利便性・大学誘致による若者流入 |
観光地での地価上昇は、「使われる土地」への転換が背景にあります。単なる資産保有ではなく、ホテルや貸別荘などの収益物件としての運用ニーズが顕著であり、投資用不動産としての価値が一気に高まりました。
特に白馬村では、1室8,000万円~2億7,000万円という超高級ホテルレジデンスが完売し、うち2割が外国人投資家による取得というのは象徴的です。これは都市部の高級マンション市場と同様、地方高級物件もグローバルマネーにさらされる時代に入ったことを示しています。
■今後の注目点:都市圏の二極化と金融リスク
《上昇続く可能性のある地域》
- 都心部や観光地、再開発エリア
- 交通利便性の高いベッドタウン
- 富裕層やインバウンド需要を取り込める地域
《下落に転じるリスクのある地域》
- 人口減少が進む郊外や地方中核市
- 災害リスクが高く再建の目処が立たない地域
- 金利上昇でローン需要が冷え込む住宅地
今後は以下のような下落要因にも注視が必要です。
リスク | 説明 |
---|---|
金利上昇 | 住宅ローン金利が上昇すると、購入マインドは冷え込み、住宅地の地価を押し下げる |
建設業の人手不足 | 新築着工が鈍化し、土地の流動性が低下 |
高齢化と空き家問題 | 地方を中心に、地価下落のドミノが続く恐れ |
■まとめ
土地の価値は、そこに人が集まり、実際に使われることで生まれます。今回の路線価上昇は、観光需要や都市部への人口集中といった、まさに“人の動き”を反映したものだと言るでしょう。
今後の地価動向については、観光や住環境、人口動態、金融政策といった複数の要素が複雑に絡み合うため、地域ごとに異なるシナリオが展開されていくものと考えられます。
私たち不動産業界に携わる者としても、価格の動きだけでなく、その背後にある社会や経済の変化に敏感に目を向けていく姿勢が求められています。
引き続き、地域に根差した情報をもとに、地価を丁寧に見極めていきたいと思います。