金利上昇、インフレ、円安。
最近の空気感をひと言で言うなら、「値段が上がる理由」と「値段が下がる理由」が、同じ画面に同時表示されている感じです。
インフレは進み(2025年10月の全国CPIは前年比+3.0%)、政策金利も引き上げ局面が意識され、円は1ドル=155円前後で推移しています。
個人的には、この状況を「不動産が上がる/下がる」の二択で片づけるのは危険だと思っています。市場はもう少し、ねじれています。
金利上昇は“不動産価格に逆風”
収益不動産の価格をやや乱暴に式にすると、
価格 ≒ NOI(純収益) ÷ 還元利回り(キャップレート)
です。金利が上がると、一般に「安全資産の利回り」が上がり、投資家が求める期待利回り(≒還元利回り)も上がりやすい。すると分母が大きくなり、価格は下がりやすい。これは、鑑定の世界ではよくある話です。
ただし、ここからがややこしくなります。
インフレは“賃料上昇”として効くかどうか
インフレが続くと、モノも人件費も上がります。
不動産にとっての重要ポイントは、そのインフレが賃料に転嫁できるかです。
- オフィスや商業は、契約や需給が噛み合うと賃料改定が進むことがある
- 住宅賃料は、上げたくても上げきれない(入居者の負担限界や競合物件との比較が効いてくる)
- 地方や郊外は、インフレでも賃料が動きにくいケースがある
なので「インフレ=不動産が強い」とも言い切れません。インフレが“家賃の現実”に変換されて初めて、価格の下支えになります。鑑定実務では、ここが一番泥くさく確認するポイントです。
円安は“外からの需要”を呼ぶが
円安が続くと、日本の不動産は外から見て相対的に割安に映ります。
この効果は、東京・大阪など流動性の高い市場、観光需要の強いエリア、あるいは海外マネーが入りやすい商品(大型・一定品質)で出やすくなります。
一方で、家計側から見ると円安は輸入物価を通じて生活コストを押し上げやすく、インフレとセットで「家計の余力」を削る面もある。
つまり円安は、不動産価格を押し上げる側面と、買える人を減らす側面を同時に持ちます。ここもねじれています。
不動産価格は「二極化」より「三つ巴」
私の主観ですが、これからの不動産価格は、単純な二極化というより、三つ巴になりそうです。
- 【強い立地×賃料が上がる物件】:金利上昇があっても粘る
- 【立地は普通×賃料が動かない物件】:金利上昇の影響を受けやすい(値ごろ感の調整が入りやすい)
- 【修繕・管理・流動性に難がある物件】:インフレでコストだけ上がり、“持つ覚悟”が必要になる
実際に鑑定の現場でも、同じエリアでも“物件ごとの差”が効く場面が増えている感覚があります。マクロは荒れても、最後はミクロが勝つ、みたいな。
「買えるか」ではなく「持ち続けられるか」
金利・物価・為替が動く局面では、買う瞬間よりも、持っている間のほうが試されます。
私自身、鑑定の現場でも、賃貸不動産の運営でも、結局は
- 賃料の現実性
- 修繕と資金繰り
- 借入条件(特に変動の耐性)
- そして立地の素直さ
このあたりに戻ってきます。
未来は誰にもわかりません。偉そうにまとめるほどの結論はありませんが、「風向きが変わる世界」では、派手な勝ち筋より、地味に耐える設計のほうが最後に効く。最近はそう感じています。
※本稿は一般的な考え方の整理で、個別の投資助言ではありません。