COLUMN コラム

地方オフィスの「容積率緩和」、期待と少しの怖さ

地方オフィスの「容積率緩和」、期待と少しの怖さ

国交省が、地方自治体が中心部へオフィス等を誘致する際に容積率制限を緩和できる新制度をつくる方針だと報じられました。特別国会(2月18日召集)に都市再生特別措置法などの改正案を提出し、2026年度施行を目指す、という内容です。
対象はオフィスだけでなく、工場・研究所、さらにスタジアムやホテルなどの集客施設にも広げる、とされています。

鑑定士寄りの目線で見ると、これは「地方創生っぽい良い話」で終わらせるには、実はけっこう繊細な政策です。うまく刺されば強い。一方、外すと“空室の高層建築”という分かりやすい傷跡も残ります。ここは、期待と不安を両方抱えたまま、地に足をつけて見たいところです。

何が変わったのか

現在の立地適正化計画では、容積率緩和が認められる場面が「病院・福祉施設の誘致など」に限られていました。そこへ法改正で、オフィス等の“働く場”や集客施設も追加する、という整理です。

つまり自治体側にとっては、中心市街地の再編で「規制をゆるめる」という、分かりやすいインセンティブ設計が可能になります。

不動産の現場で効くポイント

容積率が緩和されると、単純化すれば同じ土地でつくれる延床(床面積)が増えます。これが何を生むかというと、次の2つです。

<事業採算の改善(成立案件が増える)>
地方のオフィスは、賃料水準・リーシング(入居付け)・金融の目線が都市部ほど強くありません。採算ラインがギリギリで「建てたくても建てられない」案件が現実にあります。床が増えれば、同じ土地取得費・同じ基礎コストでも“割り付けられる収益床”が増え、成立しやすくなります。

<地価の押し上げ圧力(ただし場所は選ぶ)>
容積率が上がると、理屈の上では“潜在的に稼げる土地”になり、中心部の一定エリアでは地価が反応し得ます。とはいえ、これは需要がある立地に限ります。需要が薄い場所で容積率だけ上げても、価格が上昇するどころか、逆に建築費が重くのしかかり、不動産価格を圧迫する要因となります(鑑定の立場でも悩ましいポイントです)。

期待できること

人口流出を抑える狙い、というのは報道の通りですが、私はそれに加えて、「昼の人口を中心部に戻す」ことの効果を大きく見ています。

  • 昼間人口が増える
  • 飲食・小売が回る
  • まちの防犯・見守りも厚くなる
  • 住宅の選好性も変わる(「駅前に職がある」って強いです)

ただ、これは“オフィスが埋まる”ことが前提です。ここが次の不安につながります。

怖いポイント

地方オフィスで一番怖いのは、ざっくり言うと「借り手がいないのに建つ」ことです。

  • リモートワークの定着で、地方にサテライト需要はある
  • でも、それは“どこでも同じ強さ”ではない
  • しかも企業側は、立地より先に「人材・交通・生活利便・採用」を見ます

容積率緩和は供給側のアクセルです。需要側のエンジンが弱いままだと、アクセルだけ踏んで空回りします。ここは自治体も事業者も、正直に怖がった方がいいと思います。

成功確率を上げる条件

制度は「使えば必ずうまくいく」というものではないので、あくまで私の経験上ですが、もし活用するならこのあたりを先に確認しておくと外しにくいと思っています。

① アンカー需要(誰が借りるか)
まず「最初の核になる入居者」を置けるかどうかは、やはり大きいです。
県・市の外郭団体、地元の中核企業、大学・研究機関、医療法人本部など、何かしら“芯”があると計画がぶれにくくなります。

② 交通と生活(通勤できるか、暮らせるか)
駅前であっても、実際の通勤手段や日々の暮らしやすさが弱いと、採用や定着でつまずくことがあります。
駐車場の導線、バスの頻度、保育・教育環境など、建物の外側の条件も丁寧に見ておいた方がよいと思います。

③ まちの運用(建てた後の空間価値)
オフィス単体で完結させるより、1階のにぎわいづくり、広場や歩行者動線、夜間の安心感など、使われ続ける工夫があるほど賃料や稼働に効いてきます。
(ここは理屈として分かっていても、実務では意外と後回しになりがちです。)

まとめ

今回の話は、地方にとって「働く場を増やすためのルール改正」で、自治体側の選択肢が一つ増える、という意味では前向きなニュースだと思います。
ただ、容積率緩和はあくまで“供給側の仕掛け”なので、需要(雇用・人材・交通・生活)の土台が弱いまま建物だけ増やすと、うまく回らないケースも出てきます。

私自身も地方に暮らしていますし、地方が元気になる話は素直に応援したいです。
一方で、現場で空室のビルを見かけるたびに「制度だけでは届かない部分もある」と感じるのも正直なところです。ですから、この制度が“建てるためのカード”にとどまらず、建てた後の運用まで見据えた取り組みとして使われていくといいな、と思っています。

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