不動産鑑定士という職業には、「持久力」が必要です。
これは、体力の話でもあり、精神力の話でもあります。そして何より、鑑定評価という見えづらく、報われづらい仕事に、静かに真面目に取り組み続ける姿勢そのものの話かもしれません。
私には、前職で同じ職場だった同年代の鑑定士仲間が何人かいます。全員がいまは独立しており、それぞれの地域で鑑定業務を営んでいます。立場も、責任も、背負うものも違ってきましたが、昔からの仲間というのはありがたいもので、いまでも定期的に「情報交換会」と称して集まり、酒を酌み交わしています。名目は情報交換ですが、実質は近況報告と他愛のない雑談。それがまた、肩の力が抜けてちょうどいい時間です。
この仲間たち、なぜか全員が筋トレを続けています。40代の“おじさん”になっても、食べる量を調整し、身体を鍛え、健康に気を配っています。年齢の割にみんな身体が締まっていて、お腹も出ていない。正直、黙っていたら40代には見えない人ばかりです。
私自身も、20年以上、ほぼ毎日筋トレを続けています。ジム通いの時期もありましたが、いまは自宅での自重トレ中心。スクワット、腕立て伏せ、腹筋など、地味なトレーニングをコツコツと。誰に見せるわけでもないその習慣は、もはや生活の一部であり、筋肉を育てるというより、自分のリズムと心を整えるための行為かもしれません。
ふと思うのは、「コツコツ続ける」というこの性質が、不動産鑑定士そのものに通じているということです。
不動産鑑定士の資格を取るまでの道のりも、持久戦でした。短期集中では到底到達できないボリュームと難易度。基礎知識を積み重ね、過去問を何度も繰り返し、条文を覚え、事例を分析し、やっと本試験にたどり着く。人知れず机に向かい続ける日々が、何年も続くのが当たり前という世界です。
また、業務では炎天下のなかで現地を歩き回り、地積測量図や建物図面と現況のズレを確認しながら、写真を何十枚も撮ることがあります。冬の冷たい雨の中で、調査票が濡れないように傘と資料とカメラを同時に持ち替えながら必死に作業することもあります。
一見すると淡々とした地味な仕事ですが、すべてが判断の根拠となり、報告書の説得力となります。そして、それらを日々真剣に積み重ねていくためには、「派手さ」ではなく「持久力」が必要です。
不動産鑑定士の仕事は、派手さとは無縁です。報告書を読んで「すごいですね!」と褒められることは滅多にありません。それでも、私のまわりの鑑定士たちは、手を抜くような人達ではありません。依頼者の顔が見えなくても、いつもと同じように丁寧に調査し、まとめあげる。そうした一途さを、私は本当に尊敬しています。
そういう意味で、筋トレと不動産鑑定は似ています。どちらも地味で孤独。けれど、地味でコツコツ続けられるということは、嘘がつけないということでもあります。積み重ねた分だけ、静かに自分の中に蓄積されていく。そしてあるとき、それがふとした瞬間に、自分の判断の“軸”になります。
40代のおじさんたちが、独立してなお、筋トレと鑑定という、誰からも賞賛されない2つの「地味な努力」を続けている――。それを誇るつもりは全くありませんが、私はこういう在り方がけっこう好きです。
これからも、派手さより誠実さ、瞬発力より持久力を大切に、静かに、しぶとく、鑑定の仕事と向き合っていきたいと思っています。