もはや「異常気象」が“異常”ではなくなってきた——。
そんな実感を抱くのは、私だけではないでしょう。
夏の猛暑、ゲリラ豪雨、熱帯夜。これらが「たまに起きる気候の変動」ではなく、「毎年、当たり前に起きる季節の風物詩」になってきています。「猛暑」という言葉が毎年更新されるかのような気候の中、私たち不動産の仕事にも少しずつではありますが、変化の兆しが見えてきています。
南向き信仰に変化の兆し?
従来、日本の住宅市場では「南向き=優良物件」という図式がありました。
日当たりの良さ、洗濯物の乾きやすさ、室内の明るさ。これらは住宅評価において明確なプラス要素であり、実際、南向きの住宅は北向きよりも高値で取引されやすい傾向が続いてきました。
私自身も長年、不動産鑑定士として、評価報告書の中で「南面接道」「南向き居室」などを好材料として扱ってきました。
しかし、この「南向き信仰」に対して、最近少しずつ揺らぎが生まれてきているのを感じます。
北向きの家に“涼”という価値を見出す
例えば、アパート経営において「北向きの部屋が空きやすい」という課題は、昔からの定番でした。
「暗い」「寒い」「日当たりが悪い」——こうしたイメージが先行し、北向きの部屋は“選ばれにくい存在”でした。
ところが、近年の異常気象・酷暑を背景に、「北向き=夏場が涼しい」という、これまでにはなかった価値が注目されつつあります。
実際、真夏の昼間に南向きの部屋に入った時の、あのモワッとした熱気と、北向きの部屋のひんやり感は雲泥の差です。
しかも電気代の高騰を背景に、「夏のエアコン代が安く済む」というコスト意識から、あえて北向きを選ぶという声もチラホラ。
気候変動と電気代の高騰という二重のプレッシャーを受ける中で、「あえて北向きの家を選ぶ」という合理的な選択肢が、今後より一般的になってくる可能性があります。
アパート経営にも活かせる視点
この発想は、アパート経営における空室対策としても有効です。
たとえば、これまで敬遠されがちだった北向きの部屋でも、以下のような訴求が可能です。
- 「日差しが直接入らない、涼しい住まい」
- 「電気代を節約できるエコな部屋」
- 「在宅ワークにも最適な落ち着いた空間」
「北向き=マイナス」という従来の価値観から、「北向き=快適・省エネ」という新しい視点に転換することで、入居者の興味を引きつけることができるかもしれません。
長期的には市場価値の逆転も?
もちろん、今すぐ「北向きの家の方が高値で売れる」といった市場の逆転が起きるわけではありません。
しかし、今後さらに夏の厳しさが増し、エネルギーコストが高止まりするようであれば、評価実務においても“通風・日射・断熱”といった物理的快適性が、これまで以上に重視されるようになるでしょう。
私たち不動産の専門家やアパートオーナーにとっても、過去の常識にとらわれず、新しい価値軸に目を向ける柔軟性が求められているのではないでしょうか。
まとめ|気候変動が価値観を変える時代へ
もはや異常気象が日常になりつつある現代において、「住まいに求められる快適性」も変化しています。そして、気候の変化は厳しい現実ですが、その中で新たな可能性を見出していくのも、不動産業界の醍醐味のひとつです。
「夏に涼しい北向きの家」など、環境に優しい住宅の価値を見つめ直すことで、より多様なニーズに応える住まいづくりが可能になるかもしれません。
私自身も、今後の鑑定評価や投資判断において、「方位」についての見方を少しずつアップデートしていきたいと思います。