COLUMN コラム

高市新総裁とこれからの経済

高市新総裁とこれからの経済

2025年10月4日、自民党の総裁選で高市早苗氏が新総裁に選出されました。
正式な就任は今後の党内手続きや臨時国会を経てという形になりますが、すでに市場は「新たな経済政策の方向性」を織り込み始めています。

具体的にはこのニュースを受けて、市場は円安・株高で反応しました。「これからどうなるの?」と気になる方も多いのではないでしょうか。

今回は、いまの経済の動きと不動産との関係について、現場の肌感を交えて整理してみたいと思います。

■ 1. 政策の流れはどうなっている?

◇ 積極財政&日銀の慎重スタンス

高市さんは選挙の中で「大型の財政出動」を訴えてきました。つまり、景気を良くするために政府がどんどんお金を使っていこう、という方向性です。これを受けて、

  • 株式市場は上昇
  • 為替は円安方向に振れ
  • 金利の急上昇懸念はやや後退

といった反応が見られました。

上記のとおり、日銀の金利政策は「急な利上げはしないだろう」という見方が広がっており、実際、日銀のアドバイザーも「10月の利上げは時期尚早」と語っています。

これらを合わせると、「景気を冷やさずに温めたい」という姿勢がうかがえ、市場は“財政は積極、金融は慎重”という期待で動いています。

■ 2. 円安・インフレ・実質賃金の現状

◇ 円安は進行中

高市総裁の選出を受けて、円はやや安くなっています。円安が進むと、輸入品の価格が上がり、生活費にも影響が出やすくなります。

◇ インフレは2%台で続く見通し

日銀は2025年度の物価上昇率(CPI)を2.5%と見込んでいます。つまり、「モノの値段は少しずつ上がっていく」という見方です。

◇ 実質賃金は回復の兆しも

「物価ばかり上がって給料が増えない」とよく言われますが、2025年のデータでは、実質賃金(給料−物価)もわずかにプラスに転じた月がありました。とはいえ、まだ「力強い回復」とは言いがたい段階です。

■ 3. 不動産の視点から見ると?

このような状況下、不動産市場における私なりの整理を3つに分けてご紹介します。

(1)名目価格は底堅く、でも「割引率」がじわり

政府の積極財政と日銀の慎重姿勢は、不動産価格の下支えになります。とくに「インバウンド観光地」「都心再開発エリア」「物流・データセンター拠点」などは、価格がしっかりしています。

しかし、利上げが一度入ったことで、不動産投資における“割引率”(将来の利益を今の価値に直す計算の基準)は上昇傾向にあります。

特に、

  • 築年数の経過した賃貸住宅
  • 需要が戻らない地方の商業ビル
  • 賃料水準が横ばいのオフィス

といった物件では、収益還元法による評価額がじわじわと下がる局面に入りつつあります。表面利回りだけでは見えないリスクを、定量的に把握する必要があります。

(2)円安が建設コストを押し上げる

円安になると、海外から輸入する建材や設備の価格が上がります。新築や大規模リフォームのコストが当初の見積もりをオーバーする、という事例が実際に増えています。

  • 鉄骨・空調・EVなどの設備価格が10〜15%上昇
  • 大工や職人の人件費も上昇中
  • 実際の建築コストが想定より1,000〜2,000万円上ぶれる案件も

このように、土地の仕込み価格がよくても、工事費と売却利回りのミスマッチが出る──それが現場で起こっています。開発型の投資(建てて売る、建てて貸す)では、最後の“もう一押しの利益”が出づらくなっています。

(3)家計の財布と家賃のバランス

2025年の夏時点で、ようやく実質賃金は前年比プラスに転じた月もありましたが、インフレで物価高が進む中、家計の余力は依然として限定的です。

  • 社保負担、電気代、食品価格がじわじわ可処分所得を削る
  • 郊外・地方では家賃改定が難しく、値下げ圧力も
  • 都心・人気沿線の築浅物件は堅調

都市部や人気エリアでは家賃を上げやすいですが、郊外や地方では「家賃を上げたくても上げられない」状況も多く、投資判断が難しくなっています。

■ 現場での実務対応

実務の場面では、以下のようなアプローチが考えられます。

【取得】

  • 金利に強い用途(物流・データセンター・都心店舗オフィス)
  • 賃料改定実績がある立地・スペック(駅近、セキュリティ、Wi-Fi対応)

【保有】

  • ローンは固定金利化&長期化
  • 修繕費は為替リスクを前提に積立単価を設定

【開発】

  • 建築コスト見積りは+5〜10%のバッファで
  • 出口利回り(CAPレート)は保守的に+0.1〜0.2%上乗せ
  • テナント需要は実地でヒアリング

【売却】

  • 築古の収益不安物件は、「収支計画+現況把握」で早期売却も検討

■ 最後に

経済、政策、為替といった要素は、日々少しずつ、時に大きく動いていきます。今回のように、「新総裁の誕生」「米国の金融政策転換」「日銀の慎重姿勢」など、複数の変化が重なる局面では、表面的な相場の流れだけでなく、その背景や継続性にも目を向けることが大切だと感じます。

私たち不動産鑑定士は、地域の特性や収益の構造、その時々の経済環境を丁寧に見極めながら、お客様にとって納得感のある鑑定評価やご提案をお届けすることを心がけています。

これからも、足元のデータと現場の実感を大切にしつつ、目の前の一件一件としっかり向き合っていきたいと思います。

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