COLUMN コラム

分科会の異動で得た「地域を見る目」

分科会の異動で得た「地域を見る目」

不動産鑑定士としてのこれまでの実務経験において、私は千葉県内の分科会を三度異動いたしました。一般的な不動産鑑定士は、事務所所在地や居住地に属する分科会を希望し、その地に長く在籍することが多い中、私の場合は異動の機会に恵まれ(あるいは見舞われ)、県内各地の分科会で評価業務を行うという稀有な経歴をしてきました。

この異動に伴い、相続税路線価評価員や固定資産税評価員といった役割でも各地域の業務を経験しました。これまでに公的評価で担当してきた地域は以下のとおりです。

市原市

袖ケ浦市

長柄町

東金市

茂原市

千葉市

習志野市

船橋市

柏市

野田市

こうして並べてみると、千葉県内の太平洋側から内陸部、そして東京湾岸エリアに至るまで、実に幅広い地域に携わってきたことが分かります。

■ 地域的特徴と評価上の留意点

これらの市町村は、千葉県の中でも都市型、郊外型、農村型と大きく性格が異なり、それぞれの地域特性に応じて評価の着眼点が異なります。

1. 市原市・袖ケ浦市(湾岸工業地帯)

これらの地域は京葉臨海工業地帯に属しており、製造業を中心とした準工業・工業用途地が多く見られます。たとえば、市原市内の工業専用地域における土地の評価にあたっては、周辺の企業による取得動向や、市街化調整区域における開発規制の実態も勘案する必要がありました。実際、令和7年の工業地平均価格は前年比+8.7%(地価公示より)と堅調であり、臨海部特有のインフラ(大型道路、港湾設備等)が価格形成要因となっております。

2. 長柄町・茂原市(内陸農村部)

長柄町は典型的な中山間地域であり、農地や山林が大半を占める地域です。特に農振除外・開発許可に関する行政協議の実務が複雑で、農地法や都市計画法との整合を評価判断に盛り込む必要があります。茂原市においては、令和元年東日本台風(台風19号)等による浸水被害が記憶に新しく、一部地域では床下・床上浸水被害にあったことから、地価形成に一定の抑制的な影響が及んでいる点が特徴的でした。評価に際しては、対象地の位置する地区の排水能力や過去の災害履歴、行政の対策状況等を総合的に勘案する必要があり、地元取引事例においてもリスク要因として価格交渉に反映される傾向が見受けられました。

3. 柏市・野田市(東京圏通勤圏)

これらの地域では、住宅地評価において中古住宅市場の流通価格や、周辺の都市基盤整備(つくばエクスプレスの整備等)の影響を重視する傾向にあります。特に柏市では、再開発エリアと既成市街地との間に価格差が生じており、「地域要因の補正」をいかに定量化するかが実務上のポイントです。

4. 千葉市・習志野市・船橋市(湾岸都市型地域)

いずれも人口集積度が高く、再開発、商業系用途、タワーマンション等の開発事例が多い地域です。実務では、市街地再開発事業による権利変換の鑑定評価や、借地権・底地の評価に携わった経験もあります。令和7年の千葉市中央区の住宅地地価は+6.5%(地価公示より)、習志野市の商業地は+8.5%(地価公示より)と、首都圏の波及的影響を強く受けています。

■ 実務を通じて得たもの

こうした多様な地域での評価業務に携わるなかで、単なる評価手法の適用にとどまらず、

  • 地域特性を背景とした価格形成要因の構造分析
  • 税務・法制度・行政対応との整合性確保
  • 地元不動産業者・金融機関等からの実情ヒアリング

など、定性的な判断力が自然と鍛えられていきました。加えて、どれだけ遠方でも現地確認を欠かさないという鑑定士魂(あるいは執念)と、そして「この道、軽トラしか通れないのでは?」という道を突破するドライビングテクニックも着実にレベルアップしました。

また、公的評価における整合性と透明性の担保という観点からは、多くの分科会を移動したからこそわかる分科会間での価格水準・補正率の差異を意識しつつ、資料根拠に基づいた評価説明責任の重みを実感します。

■ 結びにかえて

多地域を経験することは、身体的・時間的な負担を伴う面も少なくありません。特に私の場合、育児と並行しながらの遠距離分科会対応は決して容易ではありませんでした。しかしながら、その経験がもたらしてくれた「地域を見る目」こそが、不動産鑑定士としての私の核を形成していると感じます。

今後も、千葉県各地の地勢的・社会的特性を踏まえた的確な鑑定評価を通じて、公平性と専門性を備えた評価を提供してまいります。

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