COLUMN コラム

不動産鑑定士としての「関係づくり」

不動産鑑定士としての「関係づくり」

不動産鑑定士という仕事は、ただ評価額を出すだけでなく、お客様との信頼関係も重要です。最近では「またあなたにお願いしたい」と言っていただけるお客様も増え、「信頼に応える仕事ができるようになったかな」と少しだけ自信がついてきました。

私はもともと内向型の人間です。高校では理数コースに進み、大学では情報数学を専攻し、大学を出てからはエンジニアや不動産鑑定士として専門職に携わっていました。どちらかというと、人と話すことよりも一つの課題にじっくり取り組む方が得意です。不動産鑑定のような緻密な作業を求められる仕事は、自分の特性に合っていると感じます。

会議が苦手

そんな内向型らしい性格が災いするのが、これまで数多く出席してきた会議の場面です。会議中に突然「〇〇さん、この件についてどう思いますか?」と意見を求められるのが苦手で、内向型の私にとって、瞬時に答えを出すのは至難の業です。話を聞きながら頭の中で情報を整理し、自分なりの考えをまとめるのに時間がかかるからです。心の中では「即答は苦手…その分じっくり考える時間をもらえれば、きっと良い答えが出せるのに…」と思っています。

そんな理由から、打ち合わせの前には可能な限り準備を整え、予想される質問について事前に考えておくようにしています。どうしてもその場で答えられない場合は、「少し調べて改めて提案します」と正直に伝えることにしています。このスタイルは、お客様からも「丁寧に対応してくれる」という評価につながることが多いです。

内向型の強みを活かすようになった理由

独立したての頃、あるお医者様から病院の賃料評価の依頼を受けました。その病院は規模が大きく、複雑な事業収支の検証も必要なことから課題が多く、複数の鑑定士に断られていた難しい案件でした。私はまず依頼主のお話を丁寧に聞き、現地調査を繰り返し、国立図書館にも足を運んで資料を集め、問題点を一つひとつ解決していきました。

最終的には、お客様が納得できる形で評価額を提示することができ、「ここまで深く考えてくれるとは思わなかった」と感謝の言葉をいただきました。この案件を通じて、内向型の持つ「じっくり考える力」や「丁寧な対応」が自分にとって大きな武器であると改めて気づかされました。信頼を築くというのは、こういう小さな積み重ねなんだなと。

『静かな人の戦略書』を読んで感じたこと

ジル・チャン著の『静かな人の戦略書』には、「内向型の人は、表面的な付き合いではなく、信頼に基づく深い関係を築く力がある」と書かれています。この一文を読んだとき、「これはまさに自分のことだ」と膝を打ちました。

内向型の特性として、相手の話をしっかり聞く力、慎重に物事を進める力、そして深く考える力があります。これらは、不動産鑑定のように正確さが求められる仕事において大きな武器となります。即興での発言や華やかな営業トークは苦手でも、一度築いた関係をじっくり深めていくことは得意ですから。

長期的な視点で、誠実に向き合う

世界で初めて大量生産の自動車を発明したヘンリー・フォードは「車を1台売って『はい、終わり』ではなく、そこから関係が始まるのだ」と語ったように、不動産鑑定も一度きりの仕事では終わりません。仕事を通じて生まれる信頼関係が次の案件へとつながる。その積み重ねが、今の私の仕事の礎になっています。

例えば、鑑定評価の案件が終わった後に「次はこの物件もお願いしたい」と声をかけていただけることは、まさにその証だと思います。信頼が次につながる瞬間ほど、この仕事をしていて嬉しいことはありません。

自分らしく働くということ

不動産鑑定士として独立したことにより、自分の特性を否定せず、受け入れることの大切さを学びました。苦手なことを無理に克服するのではなく、自分にできることで勝負する。これが私が見つけた生き方です。

これからも、一人ひとりのお客様と誠実に向き合い、信頼関係を深めながら、不動産鑑定士としての道を歩んでいきたいと思います。

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