COLUMN コラム

二地域居住と不動産市場

二地域居住と不動産市場

国土交通省は11月1日に「改正広域的地域活性化基盤整備法(以下、二地域居住促進法)」を施行し、都市部と地方、または異なる地方間で生活拠点を持つ「二地域居住」の促進を掲げました。

新法では、市町村が「特定居住促進計画」を策定し、特定居住促進地域として法律上の特例措置を受けやすくなる制度が創設されました。これにより、例えば住宅専用地域でのコワーキングスペース(※)開設が容易になるなど、住環境や働き方、地域コミュニティの整備が支援されます。

(※)コワーキングスペースとは、仕事や作業を行うために複数の人が共有するオフィス空間で、設備やインターネット環境が整っており、個人やチームが自由に利用できる場所のことです。

二地域居住の背景とその意義

「二地域居住」は人口移動による「奪い合い」ではなく、「シェア」という新しい発想が根幹にあります。地方が過疎化し、都市部では住宅供給過多のリスクが叫ばれる現代において、二地域居住の促進は不動産市場に大きな影響を及ぼすと考えられます。

具体的には、地方不動産の活性化都市部の分散化という2つの側面が挙げられます。

視点都市部地方
住宅需要分散化し、過密問題を軽減需要増加により空き家問題の緩和
仕事環境リモートワーク環境の更なる整備コワーキングスペース需要の高まり
投資機会不動産投資の分散リスク軽減低価格の物件や遊休地の有効活用が可能
二地域居住の側面(都市部・地方)

二地域居住が不動産に与える影響

1. 地方の空き家再利用と価値向上

地方には老朽化や管理不足で放置された空き家が数多く存在していますが、二地域居住の普及がこれらの物件に新たな需要を生み出します。例えば、築50年以上の古民家でもリノベーションすれば、「週末住居」や「リモートワークの拠点」としての需要が見込めます。

具体例として、長野県や山梨県では、都市部の働き手が「自然の中で過ごすセカンドハウス」として古民家を購入し、リノベーションするケースが増えています。物件の価値が上がり、空き家問題の解決にもつながります。

Before(二地域居住前)After(二地域居住後)
管理されていない空き家リノベーションされ価値が向上
市場価格はゼロに近い「セカンドハウス」として需要増加

2. 都市部の住宅価格の安定化

都市部では住宅需要が集中し、価格が高騰している地域も少なくありません。しかし、二地域居住により一部の居住者が地方にも拠点を構えることで、都市部の住宅市場への圧力が軽減される効果が期待されます。

例えば、東京都心部に家を持ちながら、週末は静岡県や千葉県の別荘地に滞在するスタイルなど。都市部の住宅需要を適切に分散し、供給バランスの改善につながります。

3. 地域経済の活性化と不動産需要の拡大

二地域居住が進むと、地方の住宅需要だけでなく、周辺施設やインフラの整備が進み、経済全体が活性化します。

  • 【住居】空き家の再活用や新築住宅の需要増加
  • 【仕事環境】コワーキングスペースやシェアオフィスの設置が進む
  • 【地域経済】飲食店や小売店の需要拡大

例えば、千葉県南房総エリアでは、コロナ禍以降リモートワーク対応の住宅需要が増え、カフェ併設のコワーキングスペースが整備され、二地域居住者に人気です。また、北海道ニセコ町では、二地域居住者向けの「長期滞在型宿泊施設」や「リゾート物件」が注目を集めており、地元経済の活性化につながっています。

4. 投資機会の拡大

不動産投資家にとっても、地方物件が新たな投資対象として注目されます。地方の物件は都市部と比べて取得コストが低いため、リスクを抑えつつ収益化を図ることができます。

投資視点都市部地方
物件価格高額低コストで購入可能
需要分散化によりやや落ち着く可能性あり二地域居住者や観光客による需要増加
投資利回り安定的な運用が可能適切なリノベーションで高利回りを期待できる

不動産市場における今後の展望

二地域居住の普及に伴い、不動産市場には新たな需要が生まれると予測されます。ここでは、具体的な変化や今後の展望について掘り下げてみます。

1. 二地域居住向け住宅の新市場が拡大

都市と地方を行き来するライフスタイルに適した「二地域居住向け住宅」が、今後、不動産市場で注目されるでしょう。

  • 【都市近郊のセカンドハウス】
    都心から1〜2時間圏内の場所(千葉、埼玉、神奈川、静岡など)で、週末やリモートワーク拠点としての需要が拡大。
  • 【リゾート地や観光地での長期滞在型物件】
    北海道や沖縄など、観光地の物件は「働きながら休む」ワーケーション需要にも対応。
  • 【賃貸市場での二拠点生活プラン】
    賃貸住宅でも「二拠点生活対応型」の短期・長期滞在プランが登場する可能性があります。

2. 地方のリノベーション市場が拡大

地方では「古民家」や「空き家」の再活用が進むことで、不動産の価値が向上するとともに、地域に新しいライフスタイルが生まれます。

  • 【古民家再生プロジェクト】
    長野県や岐阜県では、築100年以上の古民家をリノベーションして「週末住宅」や「シェアハウス」として利用する動きが増加。
  • 【遊休地の活用】
    地方に点在する空き地を活用し、二地域居住者向けのコワーキングスペースやカフェ併設住宅を開発する事例も見られます。
施策例期待される効果
古民家リノベーション空き家問題の解決、観光需要の増加
コワーキング併設住宅リモートワーク需要への対応、地域の活性化

3. コワーキングスペースや複合施設の整備

二地域居住が普及する中で、地方には「仕事環境」を整えるためのコワーキングスペースや複合施設が必要不可欠になります。

  • 千葉県南房総エリアでは、住宅街の中にカフェやシェアオフィスが併設された複合型住宅が登場し、都市部からの移住者に好評です。
  • 富山県では、リノベーションした倉庫を活用して「リモートワーク専用スペース」として貸し出す事業が始まっています。

このような施設が整備されることで、地方でも快適に働きながら暮らすライフスタイルが実現します。

4. 投資物件としての魅力が向上

不動産投資家にとっても、二地域居住向け物件は魅力的な選択肢になります。特に地方物件は取得コストが低く、賃貸やリノベーションを通じて高利回りを期待できます。

  • 地方の空き家を購入し、週末や短期賃貸向け物件にリノベーション。Airbnb(個人が自宅や空き部屋を旅行者向けに貸し出せるオンラインプラットフォーム)のようなサービスで貸し出し、安定した収益を得る。
  • 温泉地や観光地の中古マンションを取得し、二地域居住者やリモートワーカー向けに改装することで価値を高める。
投資のポイント具体例
低コストで物件を取得地方の空き家や中古住宅
リノベーションで価値を向上コワーキングスペース付き賃貸物件に改装
賃貸・短期貸しで収益化ワーケーションや週末住宅向けに貸し出し

まとめ

「二地域居住促進法」の施行は、都市と地方の人口バランスを見直し、不動産市場における需要と供給の最適化を促します。今後、不動産事業者としては地域ごとの特性を生かし、柔軟な発想で市場を開拓していくことが求められるでしょう。

私個人としても、今後の動向を見極めながら、地域と都市が共存する社会の実現に向けた取り組みが必要だと感じます。「場所の価値を再定義する時代」が来たと強く実感しています。

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