3月に地価公示が公表され、地価の上昇基調が話題になっています。加えて、東京23区の新築マンション平均価格が過去最高を更新したことや、船橋で7億円のマンションが販売されるといったニュースも見受けられます。
こうした話題だけを見ていると、不動産市場はなお強含みで推移しているように映ります。実際、数字の上でも、利便性の高い商業地や人気の住宅地では、引き続き強さが見られるのも事実です。ただ、船橋で7億円のマンションのニュースを見ますと、「ち、千葉で7億?別世界の話では・・・」と、少し遠い目になる人も多いのではないでしょうか。
ただ、日々の取引や現場を見ていると、ここにきて少し風向きが変わってきたのではないか、と感じる場面が増えてきました。
たとえば、千葉県の一部の地域では、以前であれば比較的スムーズに決まっていた価格帯の物件でも、売れるまでに時間がかかるケースが目立ってきています。買主側の反応も、ひと頃に比べると慎重になっており、価格交渉の場面でも、かなり厳しめの指値が入ることが珍しくなくなってきました。
もちろん、これは一律にすべての地域が弱くなった、という話ではありません。駅に近い場所、生活利便性の高い場所、希少性のあるエリアなどは、今でも強い動きを見せています。
一方で、やや立地条件に劣る場所や、価格が高くなり過ぎた物件については、買い手の目線がかなりシビアになってきているように思います。以前なら「少し高いけれど、そのうち決まるだろう」と見られていた物件が、最近は「いや、さすがに一回落ち着きましょうか」と市場から言われているような印象もあります。
この背景としては、やはり土地値や建築費の上昇が大きいと感じます。加えて、金利も以前のような前提では考えにくくなってきました。住宅ローン利用者にとっては、わずかな金利上昇でも心理的な負担は小さくありません。
そして、最も影響していると思われるのが、インフレによる日々の生活コストの上昇です。物価高に加え、社会保険料の負担感も増すなかで、家計の余裕は確実に圧迫されています。
食費、光熱費、教育費など、さまざまな支出が増える一方で、自由に使えるお金はむしろ減っている。住宅の取得は人生の中でも特に大きな支出ですから、そうした局面で買い手が慎重になるのは、ごく自然なことだと思います。毎月の支出がじわじわ増えるなかで、「よし、勢いで家を買おう!」とは、なかなかならないのが実情ではないでしょうか。勢いで買えるのは、せいぜい少し高めのランチまでです。
不動産市場は、地価公示や地価調査といった公的な指標だけでは見えない部分もあります。数字の上では価格が上がっていても、実際の取引の現場では、買い手の判断が少しずつ厳しくなっている。そうした小さな変化が積み重なることで、市場全体の空気も少しずつ変わっていくのだと思います。
もちろん、評価の場面では、こうした感覚だけで物事を決めるわけにはいきません。地点ごとの個別性や広域的に見た需給のバランスなどを丁寧に見ていく必要があります。
その意味では、今の段階で一概に「弱くなってきている」と言い切るのは適切ではないとも思っています。
それでも、少なくともこれまでのように「上がっていて当然」と見る局面からは、少し変わってきたように感じます。数字の上では上昇地点が増えていても、現場では少しずつ慎重さが強まっている。その両方を見ながら判断していくことが、これからはより大事になってくるのではないでしょうか。
ニュースだけを見ると、不動産市場はまだ強いと受け取られることも多いのですが、現場にいる者としては、もう少し注意深く見ていく必要がある、そんな印象を持っています。
大きく悲観する必要はないものの、楽観もしにくい。今はちょうど、その間にある時期なのかもしれません。