相続が発生したとき、不動産の評価はとても重要なポイントになります。
今回は「相続における鑑定評価」について、特に注意していただきたいポイントを、不動産鑑定の側面からわかりやすくまとめてみました。
1. 価格時点は、相続発生日となる
まず、鑑定評価の基準となる日(価格時点)は「相続が発生した日」です。
たとえば、ご家族がお亡くなりになったのが2025年4月1日であれば、その日現在の不動産の価格を評価する必要があります。
不動産は市況によって価格が変わるものですから、売却する時期や鑑定を依頼するタイミングに関わらず、「亡くなった時点の価格」であることが条件になります。
2. 税務上の評価単位での評価をおこなう
相続税の申告に使う不動産の評価は、「税務上の評価単位」に従って行います。
たとえば、広い土地では、道路の接し方や利用状況によって複数の「評価単位」に分かれることがあります。
つまり、「一筆の土地=必ずしも一つの評価対象」ではありません。
税務上、実情に応じて分割して評価すべき場合には、分けて評価する必要があります。
3. 建付減価は原則認められない
「建付減価」とは、例えば古い建物が建っているために土地が自由に使えず、土地の価値が下がるという考え方ですが、相続税の評価では、建付減価は原則として認められていません。
税務上は、土地と建物をそれぞれ個別に評価して、それぞれ適正に申告する必要があります。
4. 鑑定評価が必ず通るわけではない
不動産鑑定士がしっかりと鑑定評価しても、税務署が必ずその評価額を認めるわけではありません。
税務署側にも審査基準があり、仮に
- 市場価格に比べて不自然に安すぎる
- 取引実態と合致しない
と判断されれば、鑑定評価書があっても否認される可能性があります。
鑑定書は強力な根拠資料になりますが、絶対ではない点は注意が必要です。
5. 原則調査対象になる
相続税の申告で鑑定評価を使用すると、税務調査に選ばれることがあります。
理由は、判断が難しい物件ゆえに鑑定を依頼する場合が多く、税務署側が「適正かどうかを確認したい」と考えるためです。路線価評価より低い申告になる場合は、この確率が高まります。
調査に備えて、鑑定評価の根拠資料や説明体制を整えておくことが重要です。場合によっては、鑑定評価を行った不動産鑑定士に鑑定内容を問い合せることも必要です。
【税務署とのやりとりの例】
相続税申告後、税務署から「お尋ね」や「税務調査」の連絡が来ることがあります。
調査ではこんなことを確認されます
- 鑑定評価書の入手経緯
- 鑑定士に渡した資料(売買情報や賃料データなど)
- 対象不動産の利用状況(空室率・収益状況など)
対応のポイント
- 鑑定評価書だけでなく、裏付け資料も整理しておく
- 答えられない場合でも、誤魔化さず「確認してご回答します」と対応
- 必要に応じて鑑定士にも相談しながら、説明の一貫性を保つ
※不用意な回答や感情的な対応はNGです。冷静に、事実に基づいた説明を心がけましょう。
【鑑定依頼時に気をつけるポイント】
鑑定評価を依頼する際には、次のことを押さえておくと安心です。
① 相続発生日を必ず伝える
評価の基準日は、鑑定評価額に大きく影響します。
「この日に亡くなりました」と正確に伝えましょう。
② 利用状況を正確に伝える
対象不動産の現況(自用、貸家、空家など)を正しく伝えることが大切です。
誤った情報で評価を依頼すると、あとで問題になることがあります。
③ 必要資料をそろえる
- 登記簿謄本
- 公図・地積測量図、住宅地図
- 賃貸借契約書(賃貸物件の場合)
- 固定資産税評価証明書 など、できるだけ正確な資料を揃えて提出します。
④ 目的を明確に伝える
「相続税申告に使うための評価である」と、依頼時にきちんと伝えます。
(目的によって評価方法が微妙に異なる場合があるためです。)
【まとめ】
相続における不動産鑑定評価は、正しく活用すれば相続税節税にも大きく役立ちます。
ただし、税務リスクも伴うため、専門的な知識と準備が必要です。
✅ 価格時点は「相続発生日」
✅ 税務上の評価単位で評価
✅ 建付減価は主張できない
✅ 鑑定評価も絶対ではない
✅ 税務調査対応を見据える
✅ 鑑定依頼時には発生日・資料・目的を正確に伝える
正しい知識を持って、必要に応じて不動産鑑定士など専門家にご相談ください。
大切な財産を守るためにも、しっかり準備をしておきましょう。