COLUMN コラム

景気動向指数「悪化」

景気動向指数「悪化」

2025年5月の景気動向指数(CI)速報値が発表され、内閣府は基調判断を実に4年10カ月ぶりに「悪化を示している」へと引き下げました。この文言は、2020年7月、つまり新型コロナウイルスの最初の打撃が経済を直撃した時以来のものです。

今回の判断は、景気が後退局面に入りつつある、あるいはその可能性が高まっていること示しています。不動産業界に携わる者としても、今後の取引動向や価格形成に直接影響を与える重要なシグナルとなるため、この指数は重要視しています。

■景気「悪化」が意味するもの

一致指数は115.9と、前月比でわずか0.1ポイントの下落にとどまっています。数字だけ見れば小さな動きですが、その裏には複数の要因が重なっています。具体的には、トヨタ系列の部品工場で発生した火災によるサプライチェーンの混乱、全体的な輸出量の減少、そして米国による対中・対日高関税政策といった不確実性の高い外部要因が、企業の景況感を押し下げています。

一方で、先行指数は前月比+1.1ポイントの105.3と若干の回復を示していますが、これは期待感にすぎず、実体経済に反映されるまでには時間を要するでしょう。たとえ景気対策や金融緩和が行われたとしても、それが不動産市場の動向に反映されるには数カ月から半年以上のタイムラグがあるのが通常です。

■不動産市場への3つの影響ポイント

1. 住宅購入・投資マインドの冷え込み

景気後退が意識される局面では、消費者も投資家も「守り」に入ります。住宅ローンの新規借り入れを躊躇する人が増え、高額な購入を控える傾向が強まります。加えて、不動産投資家の中でもレバレッジをかけた運用(借入金による投資)を行っている層にとっては、金利の先高観や空室リスクが現実味を帯びてきます。

特に地方都市や郊外エリアのマンション投資、築古物件を活用したリノベーション再販などは、出口戦略の見通しが立ちにくくなる懸念があります。私自身の取引の現場でも、最近は「買いたいけど様子を見る」という層が明らかに増えています。

2. 地方圏・賃貸市場への波及

景気が後退すると、地方においては、企業の業績悪化→採用抑制→人口流動の停滞→賃貸需要の低下、という構図が容易に想像できます。これは学生需要や単身赴任者のニーズに依存している地方エリアほど顕著になると考えられます。たとえば、これまで安定した賃貸需要を見せていた駅前の単身者向けアパートでも、空室率が上昇するケースも考えられます。

また、一時期のテレワーク需要増からの再びの都心回帰により、物理的な勤務地の縛りが発生することで、今後ますます都市圏と地方の需給バランスに乖離が生まれる可能性があります。

3. 建設コスト高に加えたリスク

現在すでに建築費は高止まりしており、人件費・資材費の上昇は止まる気配がありません。その上、需要が縮小すれば、売れ残りや長期在庫のリスクが浮上し、特に中小のデベロッパーにとっては死活問題となります。実際、首都圏近郊の一部、例えば千葉では津田沼駅前の複合商業施設「モリシア津田沼」などでは、建築費増加により再開発の見直しを迫られる事例も出始めています。

また、金融機関の融資姿勢が慎重化すれば、企画段階で資金が付かず、計画自体が頓挫するケースも増えるでしょう。私がよくヒアリングした地場の金融機関でも、築古アパートへの評価や、RC造新築案件への融資方針が厳しくなっている印象を受けました。

■今後の注目ポイント

今後の不動産市場を見通す上で鍵となるのは、米国の対中・対日関税政策の動向や、国内製造業の復調スピード、そして中央銀行(日本銀行)の金融政策です。

不動産業界においては、短期的な需給や一時的なトレンドに振り回されず、中長期のマクロ環境を丁寧に見極めていく姿勢が、これまで以上に重要になってくるものと思われます。特に不透明感が強まる局面では、慎重さと柔軟さのバランスが問われます。

不動産関係者としても、引き続き足元の動向に目を配りつつ、適切に評価に反映することを心がけていきたいところです。

CONTACT
お問い合わせ

相談のご予約や当社へのお問い合わせは、
以下よりお気軽にご連絡ください。