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工務店倒産急増の背景と不動産市場への影響

工務店倒産急増の背景と不動産市場への影響

帝国データバンクの調査によると、2023年の建設業の倒産件数は1,671件で、前年比38.8%の急増となりました。現在の工務店倒産の急増は、不動産市場全体の構造的な変化を反映しているように思えます。この状況は、単なる一時的な現象ではなく、日本の住宅市場が大きな転換点を迎えていることを示唆しています。

黄金期の終焉

これまでの日本の住宅市場は、いわば「黄金期」とも呼べる恵まれた環境にありました。超低金利政策により住宅ローンの金利は歴史的な低水準を維持し、建築費も比較的安定していました。さらに、人件費も抑えられていたため、工務店にとっては利益を確保しやすい状況が続いていました。

三重苦に直面する工務店

しかし、現在の状況は一変しています。

まず、日本銀行のマイナス金利政策修正により、住宅ローン金利が上昇傾向にあります。金利の上昇により高額な新築戸建住宅の需要に下落圧力がかかります。次に、円安の影響で建築資材価格が高騰し、建築費が大幅に上昇しています。今後も当面は高止まりが続くでしょう。さらに、深刻な人手不足により人件費も高騰しています。

特に地方の工務店では、人手不足が深刻です。多くの若者が都市部へと流出し、建築業界で働く人材が不足しているため、工務店は限られた人材でプロジェクトを回す必要があります。結果として、工期が長引き、それに伴うコストも増大します。また、経験の浅い職人を雇用せざるを得ない状況が多くなり、建築の品質も維持するのが難しいと聞いています。

これらの「金利上昇」「建築費高騰」「人件費高騰」という三重苦が、今後ますます多くの工務店の経営を圧迫していく可能性が高まっています。

不動産価格高騰の影響

一方で、不動産価格の高騰も工務店の経営を苦しめる要因となっています。土地価格や建築費の上昇により、新築住宅の価格も上昇を続けています。その結果、多くの人々にとって住宅購入のハードルが高くなり、「買えない」状況が生まれています。

この状況に対応するため、一部の金融機関では50年ローンという超長期の住宅ローンも登場していますが、これは根本的な解決策とは言えません。不動産の劣化や将来的な維持費の観点から考えると、非常にリスクが高い選択だと考えます。長期にわたるローンは、金利の影響を強く受けますし、家族のライフスタイルが変化する中で支払い続けることが難しいケースも多いでしょう。むしろ、このような商品の登場自体が、住宅市場の歪みを示しているとも言えるでしょう。

地方の苦境

地方では分譲戸建て住宅の需要が伸び悩んでいます。飯田グループホールディングスの発表によると、2024年3月期の純利益が前期比59%減と大幅に減少した背景には、地方での販売が振るわず、在庫の早期販売を図るために価格を調整した結果、利益率が低下したことが挙げられます。

地方の分譲戸建て市場は、人口減少や若年層の都市部への流出などによる構造的な変化により、需要と供給のバランスが崩れ、利益を確保するのが難しい地域もあります。

今後の展望

この状況下で、工務店や不動産業界はどのように対応すべきでしょうか。私見ではありますが、以下のような方向性が考えられます。

  1. 【リノベーション市場への注力】: 不動産価格の高騰で新築需要が減少する中、既存住宅のリノベーション需要は今後増加すると予想されます。工務店はこの分野でのスキルアップと営業強化が求められると考えます。
  2. 【省エネ・環境配慮型住宅への特化】: エネルギーコストの上昇を背景に、高性能な省エネ住宅への需要は高まっています。この分野での技術力と提案力を磨くことも考えられます。
  3. 【多機能型住宅の提案】: テレワークの普及により、住宅に求められる機能が変化しています。仕事と生活を両立できる住宅設計の提案が差別化につながる可能性もあるでしょう。また、大都市圏と地方では、求められる住宅の特性が異なります。地域ごとのニーズを的確に捉えた戦略が必要です。

工務店の倒産増加は、日本の住宅市場が大きな転換点を迎えていることを示しています。多くの企業が利益率の低下に直面している今、工務店は競争力を維持しつつ、経営戦略を再構築することが求められます。

これは不動産業界全体の未来に関わる課題でもあります。この変化を注視しつつ、不動産鑑定士として適切な価値評価を行っていく必要があると考えています。

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