COLUMN コラム

“穏やかさ”という無形資産

“穏やかさ”という無形資産

不動産鑑定士として独立して数年が経ちました。独立当初は「とにかく実績を積み上げねば!」と、肩に力が入っていた私ですが、最近ようやく分かってきたことがあります。

それは、「穏やかさ」は、独立後に最も必要とされるビジネススキルの一つであるということです。

知識・経験・スピード、どれも大事。でも、どんなにスキルがあっても、心が荒れていては、判断は鈍るし、伝え方も雑になります。
穏やかであることは、士業としての“信用力”のベースになります。

ご機嫌でいられる工夫は、専門性を支える“土台”

独立後は、知識や技術と同じくらい、「心の調律」が仕事に影響します。「自分をご機嫌にしておく力」=プロとしての基礎体力だと感じています。たとえば、不動産鑑定においては、現地調査・資料分析・価格判断・依頼者への説明など、すべてが集中力と冷静さを要する作業です。心がざわついていては、判断のブレが生じかねません。

私が日々大切にしている“ご機嫌ルーティン”を少し紹介します。

  • 【報告書を書き始める前に、机を必ず整える】
     机の状態=頭の中の状態です。書類が山積みのときは、判断も曇りがちです。
  • 【お客様とのやり取りは“言葉の温度”を意識する】
     士業は専門性が命ですが、伝え方次第で信頼も失います。丁寧であっても冷たすぎず、感情に寄り添える言葉を選ぶようにしています。
  • 【メール送信前に一度“深呼吸”する】
     特にトラブル対応のときは感情が先走りがちですが、一呼吸で文面が変わることもあります。

これらはどれも、「ご機嫌でいる」ことと直結しています。穏やかさは、正確な判断や誠実な説明といった“専門職としての本分”を守る土台になります。

怒らない、という“リスク管理”

独立して仕事をしていると、トラブルや理不尽なことに出会うこともあります。
「なぜ急に納期が3日前倒しに…?」「え、未払いのまま音信不通?」といった事案も正直あります。

このような時に、感情を爆発させたところで何も得になりません。怒りは、判断力を鈍らせ、信用を失い、再依頼を遠ざける。言い換えれば、怒らないことは、専門職における“リスクヘッジ”のひとつだと思っています。

私はそういうとき、“事実を淡々と確認するモード”に切り替えるようにしています。

「納期変更の件ですが、改めてご事情をお聞かせいただけますか?」
「ご入金の件で、何かお困りのことがございましたらご相談ください」

自分の感情よりも、相手の背景を知ることを優先すると、意外と誠意ある回答が返ってきたりもします。感情を抑えるのではなく、「感情の奥にある本質に寄り添う」ようにする。これもまた、専門家としての成熟の一部かもしれません。

“余白”と“軽やかさ”

専門職の独立は、自由であると同時に、孤独であり、自己責任です。だからこそ、意図的に“余白”をつくることが、長く続けるための戦略でもあります。

  • 空き時間に意識して“街を歩く”。地価や周辺環境を肌で感じることにもつながる。
  • 移動の車中では“自分の考えを整理する時間”とする。ぼんやりした発想が、次の提案に繋がることも。
  • “即レスしない時間帯”を設ける。常時即対応の癖は、判断の粗さや疲労に繋がるからです。

「空白があるから、質が上がる」
これは、報酬単価では測れない、職人的な視点かもしれません。

精神の安定=信用の安定

精神が安定していると、言葉が丁寧になり、説明がわかりやすくなり、判断に迷いがなくなります。そして何より、「この人にまたお願いしたい」と思っていただける信頼につながります。

独立した士業にとって、“再依頼の多さ”が最大の営業ツールです。
派手なPRより、誠実さと穏やかさを積み重ねることが、長く信頼される近道だと思います。

私は特に、地方自治体や国立大学、税理士法人からの継続依頼をいただくことが多くなりましたが、内容よりも“対応”を評価されているように感じる場面も多いです。

おわりに

専門職の独立は、技術や資格だけでなく、心のコンディションもまた武器になります。
穏やかでご機嫌に働ける毎日が、結果としてお客様にも安心を与え、信頼を築いていく。

穏やかでいることは、甘えでも逃げでもなく、長く専門職として歩み続けるための技術です。そんな“静かな強さ”を、これからも大切に育てていきたいと思っています。

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