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誰よりも頭を下げ、汗をかけ

誰よりも頭を下げ、汗をかけ

鑑定業界では高齢化が進んでいるため、私は現在40代ですが、まだまだ“若手”の部類に入ります(もちろん、自分の中ではもう若くないと自覚しています。)。いろいろな鑑定士と仕事をする中で、時に「ホームページで集客して、なんとなくうまくやっている若い人」と見られることもあります。

また、こうした外から目につきやすい活動をしていると、ときに年上の鑑定士の方々との間に距離を感じる場面もあります。挨拶しても反応がなかったり、視線をそらされ会話が続かない空気に気づいたりと、居心地の悪さを感じることも正直あります。特に地方では、「調子に乗ってるな」「少し目立ちすぎじゃないか」といった空気が漂っているのを肌で感じることもあります。

それでも、お客様の信頼を積み重ねていくためにも、そして家族を養っていくためにも、誰よりも頭を下げ、地道に評価と向き合っていきたいと思っています。

「うまくやっているように見える人」ほど、現場で頭を下げている

ホームページで集客している、または(私はやっていませんが)SNSで集客している、そんな姿を見ると「なんだか要領よくやっているな」と思われることがあります。

特に私のように、見た目が比較的若く見られがちで、振る舞いが穏やかなタイプ──言い換えれば、少し“なめられやすい”という人間にとっては、その印象だけで仕事ぶりを判断されてしまうこともあります。また「現場に出ていないんじゃないか」とか、「スマートに効率だけを重視しているのでは」といった誤解を受けることもしばしばです。

ですが、実際には、評価のご依頼をいただくたびに、どこに行っても、まず最初に頭を下げるところから始めています。相手が不動産会社の担当者でも、地主さんでも、法務局でも、市役所の職員の方でも、年齢や立場に関係なく、こちらから頭を下げて丁寧に接するようにしています。また、情報をもらえそうな人がいれば、身銭を切ってご一緒に食事をさせていただいたり。

なぜなら、見えないところで支えてくださる方々のご協力なしに、鑑定評価という仕事は成り立たないからです。物件の過去の経緯、地元ならではの事情、開発計画の背景など、紙の資料やネット情報だけではわからない大切な“温度”があります。それを教えていただくには、まずこちらが本気で向き合い、敬意をもって接するしかありません。

仕事の華やかさや成果は、すべて“現場で誰かに教えてもらったこと”の積み重ねでできています。ですから、これからも、丁寧に現場で人の話に耳を傾け、誰よりも泥臭く、頭を下げ続けたいと思っています。

片道2〜3時間かかる現地調査

私が所属している分科会(複数の不動産鑑定士が協議しながら特定のエリアの地価を決めていくこと)では、千葉県内の北西部が調査対象になります。事務所を構える千葉市内から現地までは片道2〜3時間、往復すると、それだけで1日が終わってしまうこともあります。それでも、可能な限り、自分の目で見て、自分の足で歩いて、土地や建物を確かめます。

私には、小学校低学年の子どもが2人います。学校が終わると、毎日「ただいまー!」と元気に帰ってきます(あるいは学童に迎えに行きます)。妻はフルタイムで外に勤めているため、平日は私一人で子どもたちを迎えることも多く、日々の生活は分刻みのスケジュールで回っています。

正直に言えば、「遠くの分科会はきついな。時間がいくらあっても足りないな。」というのが本音です。定時後も子どもたちの宿題を見たり、明日の準備を手伝ったり、日々の雑務も山ほどあります。でも、そんな慌ただしい毎日のなかでも、遠くまで「現場に行く」時間をひねり出しています。

なぜなら、不動産の評価という仕事は、土地や建物を“数字だけ”で判断するものではないからです。現地に立ち、周辺を歩き、道を曲がった先の空気やにおいまで感じてこそ、見えてくるものがあります。近隣の不動産会社にヒアリングし、地元ならではの事情を聞くことで、数字の奥にある「背景」に気づけることもあります。

家族のための時間と、現場を大切にする信念。どちらも手放したくないですから、毎回全力で段取りを組み、早朝に出発し、できる限り早く帰る努力をしています。

時間とエネルギーを削ってでも足を運ぶ価値がありますし、不動産鑑定士として誠実であること、地に足をつけて仕事をすることを忘れずにいたいと思っています。

いつも泥にまみれている

また、自社で不動産オーナー業も行うせいか、「手を汚さずに仕事しているんじゃないか」と思われることもあります。

しかし、実際のところはまったく逆です。リスクを取り(億単位の借金をし、数千万円の頭金をあて物件を開発しています)、重圧の下で震えながら、泥にまみれて仕事をしています。たとえば、自社で開発した賃貸物件では、毎週自分で清掃に出向いています。現地に入り、共用部分を雑巾で拭き上げ、廊下や階段をほうきで掃き、ゴミ置き場の周囲を整える。空室があれば部屋内も綺麗に掃除する。暑い日は汗で服がびっしょりになりますし、寒い時期は手がかじかみます。

もちろん経費削減という現実的な面もありますが、それ以上に、「現場を感じていたい」という気持ちが強いからです。建物がどのように使われ、どこに劣化が出やすく、どういう場所にゴミが溜まりやすいか。清掃をしていると、そういった“建物の声”が聞こえてきます。これは机の上ではわからない情報です。

きれいなオフィスで、パソコンと向き合うだけの、俗に言う”スマートに”仕事をしていないこと。凡人なら凡人なりに、誰よりも泥にまみれて、誰よりも丁寧に、正確に、不動産の本質を見極めたい。そう思いながら、今日も現場に向かっています。

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