COLUMN コラム

不動産鑑定士試験合格までの体験記

不動産鑑定士試験合格までの体験記

弁護士、公認会計士と比較すると、圧倒的に認知度が低い不動産鑑定士。

しかしその試験の難易度は高く、司法試験、公認会計士試験と並び「三大難関国家資格」とされています。

試験の合格者は年間100人前後しかいません。

司法試験の合格者が1500人程度ですので、10分の1以下です。

アメリカでは不動産の売買に不動産鑑定士が同行したりするのですが、そもそも日本では不動産鑑定士が世の中に知れ渡ってません。

日本の不動産投資の世界でも不動産鑑定士の認知度が上がり、活躍する場が広がることを願いつつ、私が試験に合格したのは2008年。

これは、2008年に「誰かのための合格体験記」というタイトルで、”どこにも寄稿しないのに”、書き留めていた私の日記の原文です。

10年以上前に書いた稚拙な長文を、ほぼそのまま転記しますので、最初に一言でまとめておきます。

当時の私が言いたかったことはこれだけです。

「未来を信じ、今を我慢して、一つのことにフルコミットすると、異常な集中力が発揮され、必ず道は開ける」

はじめに

はじめに
この不動産鑑定士試験を受験するにあたっての、多くの方々の無私の努力に深く感謝します。

TACの先生方の授業は素晴らしかったです。
そして励ましあった受験仲間の皆さん。
さらに遠く離れた田舎の家族。
大病が発覚したにもかかわらず、そのことを試験が終わるまで隠し続け、私を支えてくれた母、受験期間中に天国へ旅立った祖母にも、心からお礼を言わなくてはなりません。

これらの方々の支えがなければ、私の合格はありえませんでした。

ありがとうございました。

不動産鑑定士を目指した理由

堅実な実物資産としての不動産に興味があり、建物を見ながら街を歩くのが好きだったため、不動産関係の資格に興味を持つようになりました。

大学で情報数学を専攻していたこともあり、エンジニアとして都内企業でシステム開発を行っていたものの、不動産鑑定士への夢が諦めきれず、会社在籍中に宅建を取得したのを契機に、不動産鑑定士試験合格を目指す覚悟を決めました。

受験経歴

私は2回の受験で不動産鑑定士試験に合格しました。

初年度は、TACの10ヶ月本科生に途中から入学して受講を開始し、短答式試験には合格しましたが、論文式試験には不合格となりました。

そして翌年2回目の論文式試験で合格しました。1年目は会社に勤めながら、2年目の途中からは会社を退職し受験に専念しました。受験勉強期間はトータル1年6ヶ月です。

勉強方法について

私が受験勉強期間中に重要視したポイントを、いくつかご紹介します。これらは手本には到底なりませんが、良くも悪くもひとつの見本にはなると思います。

そして100人いれば100通りの勉強方法がありますので、必要のない部分はさっさと忘れていただき、その他講師の先生方、受験仲間等の意見も参考にして自分あった勉強方法をできるだけ早い段階で見つけ、限られた時間を効率よく使っていただくのがベストだと思います。

その他、世間には難関試験の受験テクニックを紹介した書籍も多数あるので、そのようなことについて書かれた専門書を読むことも有意義だと思います。

実体験を通じ、私の実感を正直に語っていることが何かのヒントとなり、少しでも受験生の皆様のお役に立てればと思います。

期間別勉強内容

期間別勉強内容
1年目、2年目におけるそれぞれの勉強方法は以下のとおりです。

1年目

●初期段階

1年目の初期段階は、とにかく分からないことばかりでした。

講義をきいてもテキストを読んでも理解できないことが多く、仕事で帰宅が遅くなり、予習・復習が十分にできなかったこともあるかもしれませんが、はっきりいって、ほとんどついていけませんでした。

その為、当然ながら答練でもまともに書けるはずはなく、上位生がカリカリとすごいスピードで書いているのを横目に泣きそうになったのを覚えています。はたして本当に自分が各科目毎に白紙の2枚の答案用紙を埋めることができるようになるのか、と本当に心配でした。

白紙で提出するわけにはいけませんから、何かしら適当なことを自分で考えては書いてみるのですが、結果散々な点をとっていました。

0点を取ったこともあります。

しかし、2年目は会社を退職し、受験に専念できる環境になると、時間的・精神的に余裕ができ、しだいに講義の内容についていけるようになりました。そして講義が終わった後は、その内容をTACの基本テキストで何度も復習することを心がけた為、答練の成績も少しずつですが伸びていきました。

初期段階では、答案の質にこだわるのではなく、量にこだわるだけでもいいと思います。私は自分の文章で答案用紙2枚埋めることができる、というだけでも楽しいと感じました。

●短答式試験受験前

1年目は短答式試験がありましたので、当然ですが論文式試験を受けるためには、まずは最初の関門である短答式試験に合格しなければなりません。

優秀な方は短答を楽観視しても問題ないかもしれませんが、私にとっては短答も決して楽観視できませんでした。

加えて行政法規は内容が羅列でつながりがなく、覚えにくいと感じていましたので、行政法規にはある程度の時間が必要でした。4月、5月は行政法規の復習に費やす時間が多くなりました。

●論文式試験受験前

とにかく各科目の復習と基準の暗記に追われていました。

1回目の受験で、運でもなんでもいいから、なんとか論文式試験も合格者に滑り込みたいと本気で思っていたのですが、いくら勉強しても時間的に間に合わないという感覚でした。

本試験直前においても納得いく状態になく、不安な状態で本試験に挑まざるをえませんでした。結果、論文式試験は不合格となりました。

2年目

●2007年9月~2008年6月

初年度は試験を受け終わった段階で、落ちただろうと思っておりましたので、試験後は実家に帰省したり、友達と海に行ったりして試験の疲れを取り、8月中旬には来年の本試験に向けて勉強を開始していました。

2年目は背水の陣でした。

受験専念で都内に一人暮らしをしており、学費、生活費等で貯金がどんどん減っていくので、2年目不合格という選択肢は許されませんでした。

自宅の勉強机の前には「絶対合格」と墨で大きく書いた紙を貼り、自分を鼓舞しました。2年目で絶対合格を最優先課題とし、合格のためなら何でもしようと思いました。

このように書くと、辛い苦学生のように感じられるかもしれませんが、当の本人は打ち込むべき対象が受験勉強のみ、とはっきりしていたので、辛いとは思いませんでした。

もちろん、不安はなかったとは言えませんが、それよりもむしろ、30歳で勉強のみに打ち込めるなど、私はこの環境に感謝しなければいけないと思っていました。このような環境に幸せを感じ、謙虚さを持って勉強することができました。

今思えば、運動選手が「ゾーン」と呼ばれる心理状態では驚くべき成果をあげることができるように、毎日が楽しいと感じる心理状態で勉強に打ち込むのと、そうでないのとでは、成果も大きく違ってくるのかもしれません。

楽観的に物事を考えることは、脳にも良いような気がします。

また、初年度はとにかく時間が足らず、常に時間に追われている感覚でしたので、復習を繰り返すという勉強方法が特に間違っていたというわけではなく、2年目は時間さえかければ合格レベルまで辿り着けるという感覚はありました。

よって2年目はTAC上級講義に出席してその復習を中心とし、あとは基準の暗記を完璧にすること、苦手科目であった民法の克服と、合否に大きく影響するであろう科目である演習で満点に近い点数を取ることを重点課題としました。

●直前期2008年7月

TACの上位生は死ぬほど勉強をしており、そのレベルは、合格が狙えるであろうある一定レベルにひしめきあっています。

それはつまり、知能レベルがほとんど同一であろう大多数の受験生は(もちろん私も含め)、講義を集中して聞き、何度も何度も復習を繰り返せば、いつかは必ず合格を狙える位置まで辿り着けるということになります。

実際、上位生と話をしていても、また返却された答案を見ていても、さほど知識量に差があるとは思えません。しかし、合格率が非常に厳しくなった昨今、ほんの少しだけ抜け出す為には、私は知識の他、何かメンタル的な要素が必要なのではないかと思います。 

私はある程度のレベルに達すると、本番で自分の力を出し切るには、本番当日に最高の健康状態と精神状態で試験に臨むことが一番大切だと考え、健康状態と精神状態を試験当日、ベストの状態に調整する為にはどうすればよいかを考えました。

つまり、本番は単に知識だけの勝負でなく、それらの調整力も含めた「総合力」の勝負だと考えました。

これは社会人の方には納得して頂けると思いますが、社会に出てからも言えることだと思います。健康状態と精神状態は密接に関連しあっているので、両者バランスよく調整すると、最高のパフォーマンスを発揮できるはずです。

健康状態が悪くなると、精神状態も悪くなり、勉強なんてできません。よって両者を等しく考慮する必要がありました。以下私の調整方法です。

<健康状態の調整>

健康とは、つきつめていけば、「食事」と「睡眠」に尽きるのではないでしょうか。私は、受験期間中、運動は全くしませんでしたが、健康状態は常に良好でした。

特に直前期は頭にいいとされているDHAを多く含んだ食材をできるだけ取り入れた食事を規則正しく3食とり、遮光カーテン、アイマスク、耳栓等を活用し十分な睡眠をとることだけを心がけました。結果、体調を崩すことはありませんでした。 

尚、本番前日の睡眠は特に大切です。睡眠不足では頭が働かず、一年に一度の試験にも関わらず、今までの苦労が水の泡になってしまう。

緊張して眠れないのは十分過ぎるほど分かりますが(私もそうでした)、低温のお風呂に入って、お酒でも飲んで(ただし、飲みすぎるとかえって覚醒してしまうので、ちょうど眠くなる量を事前に見極めておく必要があります)、なんとか寝てしまうのが良いのは間違いないと思います。

しかし万が一、朝まで眠れなかった場合は、朝に暑いお風呂に入ると頭が冴えると思います。私も1年目は緊張で、ほとんど眠れませんでしたが、朝風呂で目を覚ましました。

<精神状態の調整>

「やりきった」という精神状態に辿り着くことが重要だと思います。 

この状態にないと直前期に詰め込みすぎ、肝心の本番で精神的に疲れてしまい、実力を出せないかもしれません。

私は2回目の受験では本番1ヶ月前において「自分の中でできることは全てやった」という精神状態にありました。よって、それまでは一日13~15時間勉強していましたが、そこから徐々に勉強量を減らしていきました。

最後の1週間は、基準の暗記の維持を一日2、3時間していたくらいで、ほとんど勉強しませんでした。あえて勉強をしない、という選択は、受験生にとって怖い選択ですが、試験当日の精神状態を良好にすることを優先し、休む勇気も必要だと考えました。

その結果、精神的に余裕をもって本試験に臨むことができました。

●本試験期間中2008年8月

<暑さ対策等>

論文式試験は、真夏に実施されます。場所によってはクーラーが効かない・効きすぎということもあります。

また、椅子がいつも座っている椅子より硬いかもしれません。できれば事前に教室を確認しておいた方が良いと思います。

私は暑さ対策にヒエピタ、TACの自習室より硬い椅子に長時間座り続けるため、お尻が痛くなることへの対策として座布団を持参しました。この2つのアイテムは非常に有効でした。

この日の為に、途方もない時間と労力を費やしてきたのですから、周りの目など気にせず、痔だと思われようが自分にできる範囲で最大限に、自分にとってよりよい環境を作るべきだと思います。

<リラックスグッズ>

あせると勝てる勝負も勝てなくなってしまいます。

あせる気持ちを押さえ、なんとか余裕を持つ。この為、家族のくれた学問の神様のお守りを持っていく、私はそのようなことで気分が落ち着かせました。

やれることは全てやってきたのですから、あとは神様仏様にお願いするしかない。大切な人の写真をもっていく、ガムをかんで心拍数を一定に保ち心を落ち着かせる、という方法等も有効だと思います。

<試験期間中に終わった科目の話をしない>

仲間内で終わった科目の話をすると、自分の答えが間違っていた場合など凹みますし、次の科目に備えるための貴重な時間を考えれば、あまり生産的でないと思います。

試験期間中は、その日の試験が終われば一人でさっさと帰宅した方がよいと思います。

<最後の最後まで諦めない>

「最後まで希望を捨てちゃいかん。諦めたらそこで試合終了だよ」は、バスケットマンである私の座右の銘です。

私は民法では最後まで書ききれず、試験官が答案を回収にきてもしぶとく書き続けており、試験官に無理やり答案を取り上げられました。

それぐらいのしぶとさはあっても、問題ありません。

科目別勉強方法

科目別勉強方法
次に、科目別の勉強方法を書いていきます。

行政法規

行政法規に関しては、一般的な勉強方法を行っていたと思います。つまり、講義を集中して聞き、基本テキストを復習した後、同じ範囲の過去問を解くという方法を繰り返しました。

宅建を取得しており、ミニテストもそこそこの点数が取れておりましたので、行政法規は大丈夫かなと少々甘く見ていたかもしれません。

しかし、なかなか答練では満足いく成績を残すことはできず(確か2回目の全答練でもD判定だったと思います)、行政法規で足元をすくわれる危機感を感じ、4月、5月は過去問集2冊を集中して解きました。

解けた問題には「○」、解けなかった問題には「×」、迷った問題には「△」を付け、次回以降は「×」と「△」の付いた問題のみを解くことで、勉強時間を短縮させました。

またひっかけ問題にひっかかりやすい素直な性格らしく、毎回同じ問題で出題者の思惑通り間違えていたので、僕ってバカだなぁと笑ってしまうこともありました。

結局、10回以上解いた問題もありましたが、最終的に「×」を全て消し、本試験に挑みました。本試験では行政法規は67.5点でした。

鑑定理論(短答式)

鑑定理論(短答式)については、論文式試験対策である基準の暗記、基本テキストの熟読、各種答練等が直接、短答式試験の勉強に結びついているので、特に短答式専用の勉強は行いませんでした。

念のため過去問を確認し(私が受験した年は1年分しかありませんでしたが)、TACの短答式答錬を受けただけで、その他特別な短答式専用の勉強はしておりません。本試験では65点でした。

民法

民法の試験は、論文式試験の初日に1科目目として実施されます。

従って、民法は他の科目に与える影響が大きく、民法を得意科目にすることにより、ロケットスタートを切れる為、何としても民法を得意科目にしたかったのですが、私にとって民法はどうしようもなく苦手科目でした。

教養3科目のうち、間違いなく一番時間をかけて勉強したのですが、最後まで不安がなくならなかった科目です。周りの受験仲間も、経済学よりもむしろ民法を苦手としている人が多いようでした。

私は本試験でも民法がかなり足を引っ張っていると思われますので、私の民法の勉強方法はあまり参考にならないと思います。

初期段階では、とにかく基本テキストで論証例を覚えることからはじめました。TACの基本テキストは論証例が細切れに記載されており、単独で論証例を覚えてもなかなか答練の得点には結びつきませんので、制度趣旨と民法の体系的理解が必要でした。

しかし、理屈では分かっていても私の成績は思うように伸びませんでした。

なんとかしなければいけないとは考えるのですが、他に何をすべきかよく分からなかったので、とりあえず論証例の暗記の継続と、各種答練で出題された問題や過去問を繰り返し解いていきました。

ただ、一度答練で出題された問題は、2度は出題されませんので、最後まで答練の成績は思うように伸びませんでした。

結局、民法は2年目でも答練の上位者20人に張り出されることは1度しかありませんでした(1回だけ、神の見えざる手の仕業で1番になったのですが、その時はテキストに載っていない内容だったので自分の文章で論証しました。その時だけ何かがのり移ったとしか考えられません)。

民法について悩んでいた折、2年目の直前期に受験仲間から司法試験の問題集の紹介を受けました。

今まで論証例の暗記、答練の復習のみとし、とにかく基本テキストに忠実に、綺麗に論証することを目指していた私にとっては、型にはまらないざっくばらんな(?)司法試験の問題集の論証は新鮮な出会いでした。

「あ、こんな感じでいいんだ」と、何か民法について道が開けた感覚がありました。

民法に煮詰まった場合、何か別の切り口からアプローチしてみるものよいかもしれません。私は気づくのが少し遅かったですが。

民法に関しては、最終的には基本テキストの論証例はほとんど暗記し、各種答練、総まとめテキストの問題は、解答を覚えてしまうほど繰り返しました。過去問も2,3回繰り返しました。

経済学

経済学を苦手とする方が多いと聞いていたので、心して取り組む必要があると思っておりました。

確かに、私も初年度に初回の経済学を受けたときは、予備知識なくいきなりスルツキー分解ですので、「いったい先生は、どの国の言葉を話しておられるのか?」とちんぷんかんぷんでした。

しかし、元々、情報数学科出身でしたので、数式や微分には抵抗がなく、グラフで理解できることも多かったので、次第に経済学が得意になっていきました。

初年度は基本テキストレベルの内容は理解できていたと思います。ただ、その年の本試験では、基本講義しか受講していなかった私には手におえませんでした。問題文を見たとき、「え?うそやろ?」と30分くらい固まってしまいました。

今まで経済学にかけてきた時間はなんだったんだと、絶望的な気分になりました。答案には何かしら書きましたが、多分限りなく0点に近かったと思います。 

2年目の経済学の上級講義は、近年の経済学の難化に対し、TACでも対策が練られたらしく、ハイレベルな内容でした。経済学に関しては、上級テキスト、総まとめテキスト、2年分の答練を何度も繰り返し復習していました。

会計学

会計学は初年度は苦労した科目です。

基本テキストが3部構成(Ⅰ.企業会計原則・制度会計編、Ⅱ.企業会計の諸概念編、Ⅲ.簿記論)となっており、勉強すべき箇所があちこち飛ぶので、私には少し面倒だと感じ、初年度は各種答練と、暗記カードの内容をおさえて本試験に挑みました。 

2年目は、基本テキストは一切使用せず、上級講義で使用した基本問題集を中心に勉強しました。基本問題集を何度も繰り返しとくことにより、会計学を得意科目とすることができました。

会計学は基本問題集だけで、私は十分だと思いました。

会計学の本試験で「負ののれん」を見たときには、一瞬ドキッとしました。典型論点の「のれん」はおさえていたのですが、「負ののれん」については初見だったからです。

しかし、のれんの逆にしたイメージだろうと、そのイメージを念頭に、なんとか書ききりました。

後に合格祝賀会で先生にお聞きしたとき、負ののれんは、のれんの逆のイメージで正解とのことでしたので、今思えば、あの場面であせらず冷静に対処できたことが大きかったと思います。

鑑定理論

鑑定士になるための試験ですから、鑑定理論は必ず得意科目にしなければならないということを聞かされていたので、鑑定理論に対しては初めから心して取り組みました。

一方、(他の科目もそうなのですが)、鑑定理論は初めて取り組む学問ですので、不安もありました。

初年度は講義のスピードが速く、ついていくのが厳しかったのですが、基礎知識がついた2年目の上級講義は私にとってぴったりフィットし、頭にどんどん知識が入っていく感覚で、毎回、講義を受けるのが楽しみでした。 

基準の暗記については、30歳となり、知人の名前や昨日食べたものがすぐに思い出せないことも多くなってきた私にとっては、初年度は少々きつかったです。

初年度は基準の小冊子を開くのも億劫でした。その為、市販の暗記CDを購入し、それを4倍速に変換し、iPodで繰り返し聞いていました。

TACへ自転車で通学する時、その他生活必需品の買い物に行くとき等は、常にそれを聞くように心がけました。この習慣は2年目も踏襲しました。

しかし、定期的に時間をとって、きちんと基準の暗記をすることを怠ったため、初年度は結局、基準の5、6割くらいしか暗記できていなかったと思います。

2年目は、鑑定理論の大前提として、「最低限、基準を全て暗記しよう」と決めました。

暗記を避けては通れない鑑定士の試験では、効率的に暗記するためには「脳」について知ることが先決と考え、脳の仕組み、効率的な記憶方法、脳によい生活習慣等、市販の専門書で体系的に理解しました。

これらの知識は無駄ではなかったと思います。暗記は寝る前に行うとよいようなので、私は基準の暗記は、夜の入浴中(半身浴で1時間)に行いました。

声に出して基準を読むと、お風呂場ではエコーがかかったようになり、耳にも残りやすいと感じました。

また、お風呂は毎日入るものなので、毎日決まった時間に一定の時間を確保して暗記できる、という面でも効果的でした。

そして、同じ箇所を完璧に暗記してから次に進むのではなく、曖昧な記憶でもいいので総論1章から各論3章まで一気に進んでから、それを繰り返す方法をとりました。

最初は1ヶ月くらいで1回転していましたが、最終的には1週間で1回転できるようになりました。これらの方法で、2年目の年末頃には基準の暗記はほぼ完璧になっていたと思います。

基準を全て覚えた後も、暗記維持の為、総論1章から各論3章まで1週間で1回転することは、本試験まで続けました。

基準の暗記には、特に近道はなく、「とにかく忘れても忘れても繰り返し覚えること」が大切だと思います。

そうやって繰り返し覚えたことは、脳のメモリにしっかり刻み込まれるので一生忘れることはないと思います。最近の試験問題は、要説から出題されることも多いようです。

私は、要説については、特に新設された各論3章についてのみ重点的に勉強し、重要と思われるフレーズを暗記しましたが、それ以外はさほど深入りせず、2回流し読みした程度でした。

しかし平成20年度本試験も要説からの出題があり、試験中に「あー、これ要説に書いてあったような・・・もっとしっかりやっておけばよかった」と思いながら解いていました。

演習

演習は、一番の得意科目でした。

演習以外の科目は机上の理論なので、少し疲れていたのかもしれません。演習は電卓を使ってより実践に近い問題を解くので、まさに「鑑定士になる為の勉強」と思うことができ、勉強が楽しいと感じました。

初年度は全体的に時間に追われていたこともあり、演習にはあまり時間を費やすことができませんでした。また、1昨年の本試験の演習問題は易しい問題でしたし、TACの答練も比較的易しかったので、演習は得点源だと思っておりました。

しかし、初年度の本試験は、1昨年前に比べてボリュームが格段に増えており、結果、散々な点数だったと思います。2年目は、同じ失敗を繰り返すわけにはいきませんでした。

演習は、100点近くとる方もいるので、演習の出来不出来が合否に大きく影響します。今後、演習の本試験問題は難しくなることはあっても、決して簡単になることはないだろうと考えました。

そして、本試験の傾向も、ボリュームを増やしていくという方向性がはっきりと感じられましたので、とにかくボリュームのある問題を2時間で書ききることを意識して問題に取り組みました。 

まず、演習対策としては最低限、各類型の解答パターンが頭に入っていること、2時間で解ききるスピード感覚、各手法の適用方法の知識は必須です。これらは、問題を解いているうちに自然と身につきますので、その後の対策として、私は毎日電卓をたたくことを心がけました。

そして4月からは、できるだけボリュームのある問題を毎日1題、2時間以内で問題を解き、自分で採点するようにしました。

そして「間違いノート」を作成し、間違えた箇所をメモしておき、次回同じ問題を解く前に、それを参照してから解くようにしました。私はイージーミスが大変多かったからです(例えば更地価格を求める際、公示価格との規準の書き忘れなど)。

採点者は簡単な計算ミス等に非常にシビアで、オマケなど絶対してくれませんので。また、私は仕込みを重要視しました。初めの20分~30分くらいは、必ず仕込みの時間にあてました。

仕込みの内容は、例えば問題文で重要な箇所は赤ペンの○で囲み、複数回参照するであろう事項はメモしました。さらに事前に計算できる箇所は、できるだけ計算しておくようにしました。

個人差はあると思いますが、私は頭の冴えている初期段階に問題文を最後まできちんと読み、ポイントとなる事項を把握し、できるだけ計算もしておく方が、問題を解く時間も早くなると思います。

また演習問題の指示事項は、案外ドライといいますか、手取り足取り丁寧に説明してはくれません。自分で考えて判断すべき点も多々ありますので、指示事項を仕込みの段階でしっかり読んでおくことの利点は大きいと思います。

私は、演習はキーとなる重要科目だと思っていたので特に力を入れ、出題されるであろう論点は、考えうる限り全て潰していきました。例えば、容積率を求める為、特定道路の問題が出題された場合など、行政法規のテキストもチェックしました。

本番の緊張感の中で初見の論点が出題されると、もうその時点でアウトだと思っていたからです。

この方針は幸いにも功を奏しました。

平成20年度の本試験では、予想通り圧倒的なボリュームでしたが、考えうる限り、最も難しい問題が出題されることを想定しておいたこともあって、なんとか鑑定評価額の決定まで辿り着くことができました。

このように、「まさか2時間でここまでやらせないだろう」と大半の受験生が予想する常識を、ことごとく超えてくるのが演習です。今後も旧3次試験レベルの問題が出題されると思います。

細かなポイントはたくさんあるのですが、演習は電卓の使用方法、問題用紙の閉じ方、仕込み方法等、工夫の余地も大きく、テクニックも人によって多種多様で受験仲間と意見交換しやすく、得意科目にし易い科目です。

受験仲間で意見を持ち合って「みんなでいい点数を取ろう」という姿勢で取り組むことが、本番でよい結果に繋がる思います。

受験において感じたこと

受験において感じたこと
その他、私が受験において感じたことを書いてみます。

丁寧な答案

「丁寧な答案」に関しては、あまり軽視しない方がいいと思います。

答案は綺麗な字である必要はありませんが、丁寧な字である必要はあると思います。

予備校ではお金を払っているので、どんなに乱雑な字で書き走っても採点してもらえますが、本試験では、あまりに丁寧さを無視した答案では印象点が悪くなるばかりか、最悪の場合、採点さえしてもらえないかもしれません。

ただ、限られた時間内で、2枚の白紙の答案用紙にある程度のボリュームで書ききる為にはスピードが要求され、丁寧さを多少損なっても仕方ないと思いますので、その丁寧さとスピードの均衡点を各個人で見極める必要があると思います。

また、綺麗な字に見えるペンの色、太さも研究する価値はあると思います。私は、高価な万年筆ではありませんが、「PILOT、太さ0.4、色はブルーブラック」を愛用していました。 

その他、段落の使い方(特に民法)、見出しの使い方(特に演習)、レイアウト(特に経済学)、あまりに省略した記載はしない(特に演習)、なども丁寧な答案を書く上で重要なポイントだと思います。

「答案は試験委員に対するラブレターだと思え」とも言うように、あくまで権限は試験委員側にあり、受験者は「読んでもらう」という立場にあります。したがって、謙虚な姿勢を持った方が、良い結果にも繋がると思います。

2次試験には面接はありませんから、答案で人物像を伝えるしかありません。これらを意識するとしないとでは、意外と大きな差がついているのかもしれません。

精神的支え

理解してくれる人が身近にいないと、この試験は本当に辛いと思います。

まず、私は受験仲間の存在が大きかったです。私は初年度は受験仲間を作ることができず、一人孤独でしたが、2年目には、TACで公平無私な受験仲間を作ることができました。

それらの仲間は、様々な情報を相互に共有できるという点はもちろんのこと、同じ目的意識をもって努力しています。長期間の受験勉強を必要とする鑑定士試験の精神的な支え、モチベーションの維持において、非常に重要な存在でした。

本当に難関なこの試験に、軽い気持ちで挑んでいる人はおらず、皆それなりの覚悟をもち、他の何かを犠牲にしながら、人生をかけて挑んでいます。

くじけそうなときも何度かありましたが、TAC自習室で早朝から夜まで勉強している仲間の姿を見て、私もがんばろうと思いました。 

また家族の存在も非常に大きかったです。私は独身ですので(※受検当時)、一番大切な存在は遠く離れた田舎の家族でした。

会社を退職し、受験専念で勉強すると伝えたときは心配をかけたでしょうが、全く反対せず、理解し、心から応援してくれました。家族で寄せ書きした励ましの手紙を何度もくれ、いつも遠くから見守り、支えてくれました。

合格することが家族への一番の恩返しであると信じて、勉強のみに打ち込むことができました。 

このように、30歳という人生の節目に、一つの大きな目標に向かって仲間や家族と共に歩み、真正面から誠実に取り組めたことは、私の人生の中で非常に意味のある経験だったと思います。

最後に

私の不動産鑑定士試験の体験談は以上です。

稚拙な長文を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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