不動産鑑定士の仕事と聞くと、デスクで難しい書類に囲まれながら冷静に作業しているイメージが強いかもしれませんが、実は現地での調査、いわゆる「実査」が非常に重要です。現場で実際に目で見て、感じたことをしっかりと報告書にまとめることで、机上のデータだけでは見えない部分に気づくことがあります。
とはいえ、その実査が時にハードで、思わぬ試練に直面することも。今回は、3年前にも同じような記事を書かせていただきましたが、私がこれまで経験した過酷だけど今では少し笑える実査でのエピソードをお届けしたいと思います。笑ってもらえたら嬉しいですが、不動産鑑定の現場の厳しさも少しでも伝わればと思います。
冷凍倉庫 - 40度の実査
ある夏の日、冷凍倉庫(常温倉庫と併用で、一部が冷凍倉庫となっている)の評価をすることになりました。当時は若手で「冷凍倉庫?特に問題ないでしょ」と謎の自信から軽い気持ちで半袖のまま突入。しかし、冷凍倉庫の中の温度は驚愕の-40度。調べてみると、ロシアのシベリアにあるヤクーツクと同じくらいの気温。人間が生活する最も寒い場所と同じということです。
しかも、完全に準備不足で上着もなし、マフラー、手袋、帽子どころか、半袖です。すぐに指先の感覚がなくなって、メモなんて取れるわけがありません。動かないと凍りつきそうで、気づいたら倉庫内を走り回ってました。まるでハツカネズミ状態です。
そして、さらに追い打ちをかけたのが、外の真夏の暑さとの寒暖差です。メガネが一気に曇って、視界が真っ白に。仕方なくメガネを外したら、今度は近視でほとんど見えません。「めがね、めがね…」って探し回るあの状態に完全に陥りました。次からは絶対にちゃんとした装備で行こうと心に誓いました。
ホテルで大寒波
ホテルの評価をするために、事前に自腹で宿泊することにしたんですが、運が悪かったです。真冬の大寒波が襲ってきた日で、しかも古い国民宿舎。夜中にエアコンがきかなくなってしまい、寒さに震えながら一夜を過ごしました。布団にくるまっても体が震え続けて、全然眠れなかったです。
さらに翌日は大雪。私の車はノーマルタイヤだったので、帰ることができず、もう一泊する羽目に。年末年始で時間はあったものの、心の中では「なんでこんな目に…」と嘆いていました。
別の日には、一緒にこのホテルを評価をしていた不動産鑑定士がホテルの床下に携帯を落としてしまうハプニングもありました。床下には水が溜まっていて、携帯は見事に水没。実査の現場では、予期しない出来事が次々と起こります。
ちなみにその後、このホテルは大改装されました。今では家族で何度も遊びに(レストランで食事に)行っています。
真夏の荒地で穴あき空調服
真夏の炎天下で、荒れ地の評価をすることになりました。いつもの空調服を着て、これで暑さ対策は完璧だと思っていたんですが、当日の出発直前になってまさかのトラブル。ファンが壊れていることに気づきました。仕方なくファンだけ外して、いろんなところに大きな穴(ファンの部分)が空いたままの空調服を着ることに。
見た目は相当変態だったと思うのですが、同行していただくお客様に何食わぬ顔で挨拶して何とか切り抜けました。お客様が何もツッコまなかったのは、きっと優しさだったんでしょう。心が軽くなりました。
そして、今回の評価対象は雑草が生い茂る荒れ地。それも無道路地で、管理されていない雑木林地を通らないとたどり着けない場所にあります。現地に行くまでの道のりは予想以上に大変で、自分の背丈以上ある雑草をかき分けながら汗だくになりながら進むしかありませんでした。
ようやく目的地に着いた時は、達成感とともに少し涼しく感じました。でも、その涼しさは機能不全に陥った空調服のおかげではなく、お客様の気遣いがあったからかもしれません。
おわりに
振り返ってみると、不動産鑑定士の仕事ってアクティブなんだなと改めて思います。ただオフィスで書類や数字を見ているだけじゃなく、実際に現場に足を運んで、いろんな体験をするのもこの仕事の醍醐味です。
時には予想外のトラブルに巻き込まれることもありますが、それもまた仕事の一部。逆に、そうした現場でのリアルな経験があるからこそ、机上ではわからない大切なことに気づくことができます。
実際に体験した気温や空気、土地や周りの状況などは、書類だけでは伝わりません。これらの現場で得た生のデータや感覚が、正確な評価につながっていくんだと思うと、この仕事の面白さを感じます。過酷な現場でも大変さもありますが、それがなければ成り立たない部分が、鑑定士の仕事には多いんだなと感じる日々です。