COLUMN コラム

不動産目線で読む2026税制大綱

不動産目線で読む2026税制大綱

住宅・相続・資産形成の“現実対応”が一緒に動きそうです。

「2026年度税制改正大綱」に向けた議論を眺めていると、家計の現実に合わせて制度を少しずつ“調整し直す”空気を感じます。不動産は税制の影響が大きいぶん、制度が少し動くだけでも、市場の温度や買い方・持ち方がじわっと変わることがあります。

今回は不動産に絞って、私が税制大綱で個人的に気になった3テーマを、鑑定の現場で感じることも交えながらまとめてみたいと思います。
※まだ調整段階の論点を含むため、最終形は大綱・法案で変わる可能性があります。

1. 住宅ローン減税5年延長(+床面積要件の緩和)

今回の3テーマの中で、最も生活者の体感に直結しそうなのが住宅ローン減税です。
報道ベースでは、2025年末に期限を迎える制度を5年間延長する方向で、政府・与党が調整しているとされています。あわせて中古や狭小(コンパクト)住宅の支援を広げる論点が示されており、住宅価格の高騰が続くなかで、実需を下支えする意図が読み取れます。

ここに延長が加わるだけでも心理的な効果は大きいのですが、私が個人的により注目しているのは床面積要件の緩和です。
単身世帯の増加や都心部でのコンパクト住宅ニーズの拡大を背景に、減税の適用対象となる床面積を、現在の基準である「50㎡以上」から「40㎡以上」に緩和する方向で検討されているとされています。

鑑定の現場感覚でも、ここ数年は「広さ」よりも

  • 立地
  • 管理状態
  • 生活利便や職住近接

を優先する実需が増えており、40㎡台であっても“納得感のある住まい”として選ばれるケースは珍しくありません。制度がその現実に寄ってくるのは自然な動きだと思います。

ただ、税優遇が厚くなるほど、購入判断の重心が「制度ありき」に寄りやすいのも事実です。
結局最後に効いてくるのは、「借りられる額」ではなく「返せる額」という基本だと思います。

延長と要件緩和は、住まいの選択肢を広げる“支援”として歓迎しつつも、家計のキャッシュフローと将来の修繕・教育費まで含めて、慎重に判断したいところです。

2. 投資用マンション節税に歯止め

今回の3つの中で、市場の空気を最も変えうるのはこのテーマだと思います。
投資用マンションを使った相続対策について、評価のあり方をより実態に寄せる方向で議論が進む可能性がある、とされています。

要するに、これまでの「現金を投資用不動産に替えて相続評価を圧縮する」という“タイミング依存の節税”に、制度として歯止めをかける流れです。

この動きをどう見るか。私は基本的に、課税の公平性を回復する方向として理解しています。
同じ経済価値の資産でも、

  • 購入の仕方
  • 購入のタイミング

で税負担が大きく変わる状況が長く続くと、制度の信頼そのものが揺らいでしまうからです。

一方で、市場の空気は少し変わるかもしれません。
これまで“収益+節税”で需要が支えられていた部分は、より素直に「賃貸事業として成り立つか」が問われるようになります。

短期的には駆け込みと反動、流動性の鈍さなどが出る可能性はありますが、中長期では“運営の地力”が評価される方向に寄っていくのではと思います。

3. NISA、18歳未満も積み立て可能に

最後はNISA。
一見不動産から離れたテーマですが、私はむしろ長い目で見ると不動産の選び方にも関係すると感じています。

もし未成年からの積立投資が当たり前になれば、家計の資産形成は「住まいだけに重心を置かない」形に少しずつ広がっていくかもしれません。

住宅ローン減税の延長・要件緩和と、若い世代からの資産形成支援が並走するのは、“住まいと金融資産を両輪で考えてね”というメッセージにも見えます。

すぐに市場が変わる話ではありませんが、家計の意思決定の雰囲気をゆっくり変えていく力はありそうです。

まとめ

3つのテーマを、かなりシンプルに言い換えると、

  • 【住宅ローン減税の延長と面積要件の緩和】
    → 不動産価格高騰と世帯構造の変化を前提に、実需の受け皿を現実寄りに整える動き。
  • 【投資用マンション節税の見直し】
    → “タイミング頼みの相続対策”を整理し、評価の実態性を強める動き。
  • 【未成年NISAの拡充】
    → 住まい偏重になりがちな家計の資産形成を、もう少し分散・長期の文脈へ誘導する動き。

不動産は、税制のルール変更に対して正直な資産です。ですから、「節税に強い物件」より「経営に耐える物件」という視点を、これまで以上に大事にしたいと思っています。

これは鑑定の現場だけでなく、弊社自身でも小規模ながら賃貸用不動産の開発に関わったりする中で、実感として強くなってきた考えでもあります。
制度の追い風があるときほど、つい気持ちが前に出がちですが、最後に残るのは結局、立地、家賃の現実性、資金繰りの地力といった、ごく基本的な部分だと思うのです。

私個人としても、こうした感覚をもう少し体系的に整理したくて、先月は不動産鑑定の仕事とは別軸として、賃貸不動産経営管理士の試験も受けました(合格発表はクリスマスです)。
まだまだ学びの途中ですが、“税制がどう動いても、最後は経営(運営)の基礎体力がものを言う”という当たり前の話を、なるべく実体験として自分の中で蓄積しておきたい、というのが正直なところです。

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