「令和7年(2025年)都道府県地価調査」が公表されました。全国平均は、全用途・住宅地・商業地のいずれも4年連続で上昇、しかも上昇幅が拡大しました。
三大都市圏は引き続き堅調で、地方圏もじわり上向き。コロナ後の回復期が“地価”という遅行しやすい指標にも、ようやく素直に表れてきた印象です。
ざっくり全体像(対前年平均変動率のポイント)
- 三大都市圏の住宅地:+3.2%(前年+3.0%)/商業地:+7.2%(前年+6.2%)。東京圏は住宅+3.9%、商業+8.7%と上げ幅拡大。大阪圏も住宅+2.2%、商業+6.4%。一方、名古屋圏は住宅+1.7%、商業+2.8%と伸びはやや鈍化。
- 地方圏の住宅地は全体で+0.1%。内訳は「地方四市(札幌・仙台・広島・福岡)」が+4.1%に鈍化、「その他地域」はついに“横ばい(0.0%)”まで戻してきました。長年の下落トレンドからの底打ち感がにじみます。
実務メモ:大都市の“商業地>住宅地”の伸びは、観光回復・都心回帰・大型再開発の3点セットで説明しやすい。一方、地方圏は「核都市は強い/非核は底打ち」へと二極から段階的に埋め戻している過渡期です。国交省は「全体として上昇基調が続く」と総括しています。
千葉県の所感
千葉は住宅+3.3%(前年+3.2%)、商業+4.8%(前年+5.0%)、工業+8.2%(前年+9.9%)。数字だけ見ると“堅調持続、やや減速”ですが、体感としては湾岸〜外房の観光・レジャー動線、TX/常磐・総武沿線の都心通勤圏、それに湾岸・内陸の工業系が三本柱。県の発表は「住宅・商業・工業・全用途すべて上昇、上昇地点が多数」と整理しています。
実務メモ:住宅地は“通勤と生活利便”が効く駅力の差。新築分譲・賃貸ともに“駅徒歩×築年×管理”の掛け算評価がよりシビア。商業地は“人流回復+域内消費”で選別。郊外ロードサイドは賃料の天井感があり、更新時の条件見直しで表面上の利回りが揺れやすい。工業地は“モノ・データの置き場”需要で底堅いが、直近は金利・ドライバー不足・造成コスト・用地不足がブレーキ。数字の減速が見て取れます。
テーマ別に見る今年の“強さ”と“弱さ”
- 都心商業地の強さ:東京圏の商業地は+8.7%。都心の再開発・インバウンド復活・オフィス需要の選別強化で「良い場所にお金が寄る」現象が続く。公示の動きも踏まえると、東京心臓部は依然として別世界です。
- 地方核都市の一服感:地方四市は住宅+4.1%と伸び鈍化。コロナ期の逆張り資金や観光復活の一巡感、材料の目新しさの乏しさが影響。とはいえ依然プラス域。
- “工業地>住宅地”の構図:全国工業地+3.4%で横ばい高止まり。物流・冷凍倉庫・データセンター等の用地需要が中長期の下支え。ただし造成費・金利・電力が投資判断を難しくし、過熱は抑制されつつある印象です。
- 地震影響地域の復元力:石川県は住宅が▲0.3→+0.6、商業0.7→1.9へと持ち直し。復旧・復興需要が局所的に価格を支えた可能性。復興の“スピード差”が地価にもにじみます。
金利・インバウンドについて
- 金利:2024年3月に日銀はマイナス金利を解除。超低金利は続くが「上げ余地がゼロではない」世界線に変わりました。借入コストは一気に跳ねてはいないものの、優遇幅縮小や与信姿勢の微修正が利回りに影響。
- インバウンド:訪日客数は2025年4月に単月過去最高の約390万人。都心商業・観光地・ホテル系のテナント期待を通じて、商業地の上昇を後押し。円安バイアスが続けば、外需の消費は当面支えになります。
2025年下期〜2026年に向けて注視すること
- 収益不動産の選別:賃料増の持続力が疑わしい立地は、金利・修繕・電力のトリプルコストで一転“割高”。賃貸の原資=キャッシュフローに「増額余地・更新リスク・空室回転」を鑑定に織り込む必要あり。
- 地方の底打ち後:地方“その他”の住宅地が横ばいまで戻したのは朗報。が、人口・雇用・教育医療の生活インフラが伴わなければ、再下落リスクは消えない。公的投資や企業誘致のニュースは地価を動かす“起点”になり得ます。
- 工業地の“電力問題”:データセンター等は用地×送電の二本柱。土地だけ見ていると足をすくわれる可能性あり。造成・系統増強・スケジュールの三点セットで与信。
- 再開発の波及範囲:都心の地価を引っ張るのは再開発だが、建築費高止まりにより頓挫も増加。賃料の波及は半径依存。期待先行の“外縁部買い”は来年の是正候補。
まとめ
今年の地価は「都心主導の上昇を、地方が遅れて追いかける」構図をはっきり再確認した年でした。また、金利は“ゼロ下限”からの世界に入り、収益の質で価格が振れやすくなる一方、インバウンドは当面の追い風。
投資も実需も、“駅力×用途×将来賃料”に尽きます。数字は上向きでも、買付根拠はより厳密に。来年は“強い場所がより強く、横ばい圏はより選別”になる——そんな一年の入口に立っている感覚です。