鑑定評価
親族間売買・同族間売買における鑑定評価
親族間・同族間の不動産売買では、第3者間と比較して売買価格を自由に設定できることから注意が必要です。なぜなら、このようなケースは税務署も目を光らせており、「時価」ではない不適切な価格で売買すると税務上の問題が発生するからです。仮に税務調査が行われた場合、当事者は適正な売買価格であることを証明する必要があり、これが認められない場合、追徴課税される可能性があります。
解決事例 CASE STUDY
時価を求める方法はいくつかあり、その一つに相続税路線価に基づく方法があります。しかし、これらは簡易的・画一的な評価方法であり、実際の市場価格とは異なることがあります。そのため、売買価格の公正な証明手段として、「不動産鑑定」が最も確実な方法となります。
今回は、個人から法人へ不動産を譲渡する場合に、当社にご依頼いただいたケースをご紹介します。時価よりも低い価格で譲渡(低廉譲渡)すると、その差額に対して税務署から追加課税(法人税・贈与税)のリスクがあるため、事前に公正な譲渡価格を把握する必要がありました。
この事例で対象となった不動産は、大規模な土地と建物で、高級住宅地域に位置しています。建物の品質も高いため、国内外の富裕層が主な需要を持つ一戸建て住宅としての価値がありました。そのため、「時価」を適切に把握するには、富裕層の視点から不動産を評価する必要がありました。
解決策 SOLUTION
富裕層向け高級住宅である対象不動産の特性を考慮し、「市場性修正率」を重視して評価を行いました。具体的には以下の二つの要点に注意しました。
①敷地と建物の規模が大きく、建物の品質も高い一戸建て住宅は、一般的な中所得者向けの住宅と比べて価格が高くなります。そのため、購入可能な市場参加者は資金力のある富裕層や法人などに限られ、その結果、流動性が低下する可能性があります。
②対象となる建物は築年数が経過していたため、購入後に大規模な修繕や維持管理が必要となり、その費用が高額になることが予想されます。これにより、市場での魅力が減少する可能性があります。
以上の要点を踏まえ、鑑定評価額を決定しました。
気をつけたいポイント POINT
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「時価」を把握する際に重要なポイントとして、税務上の評価方法が「財産評価基本通達」により規定されていることが挙げられます。
この通達では、土地の評価額は「それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」であるという基準が設けられています。しかし、裁判などでは「財産の価値は客観的な交換価値である」と解釈されています。
客観的な交換価値とは、第三者への売却時の市場価格(時価)を指します。そして、この時価の計算は通達によって定められた一律の評価方法を用いて相続財産を評価することが求められています。
この一律の評価方法に関して、相続税法第22条(評価の原則)では、特別な規定があるものを除き、相続や贈与により取得した財産の価額は、取得時の時価によることが規定されています。これを「時価主義」と呼びます。
この「時価」を適切に把握するためには、不動産鑑定が最も公正で確実な方法とされています。それゆえ、鑑定評価が必要とされています。 -
時価よりも低い価額で不動産を売却した場合、以下のような問題が生じることに注意が必要です。
通常、土地や建物を売却した際は、実際の売却価額が収入として計上され、それに基づいて譲渡所得が算出されます。しかし、売却先が法人で、しかも売却価額が時価の半分以下である場合、売却した土地や建物の時価が収入金額として譲渡所得の計算に使われます。
例を挙げて説明します。例えば、同族会社の代表者が自身の会社に時価1億円の土地を4,000万円で売却したとします。この場合、譲渡所得の収入金額は売却価格の4,000万円ではなく、時価である1億円とされます(所得税法59条、所得税法施行規則169条)。
このため、親族間・同族間の不動産売買では鑑定評価が必要とされているのです。
(出典)国税庁HP「時価より低い価額で売ったとき」より抜粋