鑑定評価
医院(クリニック・診療所)の家賃
医師が個人事業主として医院(クリニック・診療所)を経営する場合、利益が多くなると納める税金も高額になります。このため、節税を目的として法人を設立するケースがあります。
この場合、医院と法人との間の取引や賃料について合理性・妥当性が認められなければ、税務調査が入り否認される場合もあります。
特に医院と法人との間で不動産賃貸を行う場合は、節税効果が高いため、不動産鑑定を含めた慎重な検討が必要です。
解決事例 CASE STUDY
個人医院が法人に建物を売却し、法人から医院へ賃貸するスキームにおいて、当社に家賃(新規賃料)の鑑定評価をご依頼いただいたケースをご紹介します。
本医院では建物を医師個人で建てて開業した後、医業所得が増え続けたことをふまえ、節税等を目的として法人を設立。建物を法人へ売却し、法人と医院との間で賃貸借契約を締結し、医業経営を継続される方針でした。
本医院は一般内科をはじめとした多数の診療科目を持ち、規模・売上が大きな医院でした。売上に比例して家賃設定も高額になり、税務上は金額の多寡が大きなポイントとなるため、税務調査等で指摘される可能性がありました。
このため、家賃(新規賃料)の設定時に当社に不動産鑑定評価をご依頼いただいた、という流れです。
解決策 SOLUTION
医院等の事業用不動産は、その事業の収益性が経営の動向に強く影響します。
このため、賃貸人が所有する土地建物という「物理的な価値」の視点のみならず、賃借人の「事業の価値」の分析が必要となり、これら両方の視点を持って賃料を評価することになります。
※前者を積算賃料、後者を収益賃料といいます。
収益賃料における事業の価値の分析では、現実の医師の持つ特殊な能力や権利によって得られる収益は除かれるため、医業経営のみに属する適切な家賃負担力の判定が必要です。
このため、医院の過年度事業収支を不動産鑑定用に仕分けし、一般的な診療所に関する指標等との比較により分析します。
また、積算賃料では基礎価格、期待利回り、必要諸経費の査定が必要になりますが、このうち必要諸経費の査定では病院の高額な検査キッド(設備)事業に含まれる器具、備品の資産区分を丁寧に判定していきます。
気をつけたいポイント POINT
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事業用不動産の中でも医院(病院等も含む)の取引は多くありません。このため、類似施設(介護施設等)との物的比較、リスクリターンの比較等が必要になります。
例えば利回り(積算賃料における期待利回り)の査定において、同種のアセットの比較対象が少ない場合は、サービスの内容が近いアセットの事例を用いて比較します。
<マーケットとの比較の例>
●事業者の収益力:近隣の同業種の物件の売上げ、経費率、利益率など
●建物賃料:近隣の賃料相場、事例、Jリート、同種同業の賃料負担率の全国統計との比較
●土地建物一体としての価格:取引事例と延床面積または賃貸面積当たりの価格の比較
●建物:再調達原価、耐用年数の比較(コストアプローチの視点)、投資回収の利回り
●賃料(地代含む):賃貸事例、統計、固定資産税額との比較、利回りの比較
●期待利回り(還元利回り):取引事例、Jリート など
※自用の場合も賃貸を想定した家賃負担力を想定して評価します。 -
医院等の事業用不動産の評価は土地・建物・設備の物理的な価値のほか、そこで事業を行う事業者の事業能力、ブランドなどに大きく依存します。
したがって、鑑定評価でも事業者の事業分析や医業に特化した知識も必要であり、医療業界の市場分析も欠かせません。
医院等の不動産鑑定では次のような点に留意が必要です。
●医院(病院等)は経営者と医療関連スタッフによる医療の質に大きく依存すること(事業者の事業能力に依存)。
●医院(病院等)の建物用途転換の可能性(建物の汎用性)。
●医療保険制度の制度改変リスク、法律等外的要因として診療報酬の改正・薬価基準改定率の現状と動向、基準病床数制度の現状度動向、供給規制(大病院のみ)
●事業そのものの要因、医療サービスの専門性、意思の属人性、キーマンリスク
●事業の持続性、安定性についての分析
●医療機器、設備の存在
不動産鑑定ではこれらを精査し、最終的な鑑定評価額に繋げていきます。なお、医師へのヒアリングは協力が得られる範囲で行います。